自民、公明両党は衆参両院3選挙で全敗した。国政選初陣の菅義偉首相は衆院北海道2区で候補擁立を断念し、「保守王国」と誇る参院広島選挙区でさえ敗北した。自民出身議員の「政治とカネ」問題が背景。参院長野選挙区でも野党の議席維持を早々に許し、今年最大の政治決戦である衆院選へ危機感が急速に広がった。立憲民主党など野党は共闘が奏功した形だが、連携のきしみは隠せず課題が露呈した。[br][br] ▽マイナス[br] 「どっちも厳しいな。とにかく公明党だ」。首相は選挙期間中、長野、広島の情勢をこう分析した。衆院選の前哨戦であるだけに、焦りをにじませ自民幹部に矢継ぎ早に指示を飛ばした。公明は支持母体・創価学会という強力な組織票を持つ。[br][br] 3選挙は与党にとって「マイナスからの出発」(自民幹部)だった。新型コロナウイルス感染で死去した立民幹部の「弔い合戦」となった長野では、政府のコロナ対策を巡り「何でワクチンが来ないのか。後手後手だ」(立民の福山哲郎幹事長)と集中砲火を浴びた。[br][br] 3敗で首相の求心力はそがれた。公明の石井啓一幹事長は記者団に「政権運営への影響はなしとは言えない」と述べた。自民中堅は「菅首相は選挙の顔になるのか」と危ぶむ。閣僚経験者も「大打撃だ。選挙基盤が弱い若手から懸念の声が噴き出すだろう」と予測した。[br][br] ▽嫌悪感[br] もがく首相が「1勝」へ熱視線を送ったのが厚い支持層を持つ広島だった。「普段ならダブルスコア」(関係者)と楽観視する向きもあったが、すぐに見誤ったと知る。[br][br] 敗因は明確だった。2019年参院選での河井案里前議員による買収事件で県民に広がった「与党への嫌悪感」(公明幹部)だ。自民筋は敗戦を受け「批判は想像以上。保守地盤だから勝てるとおごっていた」とショックをあらわにした。ベテランも「政権が過ちを犯せば、厳しい審判が下るという教訓だ」と語った。[br][br] 与党内対立も響いた。河井前議員を強引に立てた党本部へのわだかまりを残す県連側は、河井前議員を推した党幹部の応援を拒否。首相現地入りは検討もされなかった。[br][br] 公明が次期衆院選広島3区の与党候補の座を奪ったことも影を落とした。自民議員は「いきなり殴ってきた」と憤り、公明議員は動きが鈍い自民県連について「これまで楽な選挙戦をしてきたから、戦い方を知らない」となじった。自民の岸田文雄県連会長は告示直前、公明の山口那津男代表を訪ねて協力要請したが、歯車が完全にかみ合うことはなかった。[br][br] ▽ばらばら[br] 統一戦線を組んで全勝した野党は「政権にノーを突き付けた」(立民の長妻昭副代表)と勢いづく。共産党の小池晃書記局長も「野党が力を合わせれば勝てると証明した」と強調するが、選挙戦で不協和音が生じていたのは否めない。[br][br] 象徴だったのは長野だ。立民候補が共産などの県組織と交わした政策協定に原発ゼロや日米同盟見直しが明記され、保守的な議員の多い国民民主党や支援組織の連合が反発。立民の枝野幸男代表らは釈明に追われた。[br][br] 立民は連合などへの配慮から、北海道、広島で共産を推薦政党の輪から除外。支援にとどめた共産は不快感を隠さない。[br][br] 枝野氏は周囲に選挙戦をこう振り返った。「完全な協力態勢は無理だ。ばらばらでも、それぞれが頑張ればいい」