東京、大阪など4都府県で緊急事態宣言に至った新型コロナウイルスの感染「第4波」は、さらに拡大する様相だ。変異株が猛威を振るう厳戒下で「ワクチン頼み」の機運は高まる。ワクチン供給が「潤沢」局面に移ることも背景に、自治体には予約の申し込みが殺到する。始まったばかりの高齢者への接種事業は、いきなり「フル稼働」を求められる正念場だ。[br][br] ▽集団接種[br] 「感染リスクが下がるので絶対に打ちたい」。東京都大田区の男性(70)は、夏の東京五輪でボランティア活動を行う予定。「6月までには、必要な2回の接種を終えたい」と期待を掛ける。[br][br] 神奈川県大磯町の女性(75)は「変異株は感染力が強いと聞く。とても怖い。接種できたら孫に会える」と願いを託す。[br][br] 首都圏のある首長は、出口の見えないコロナ禍に「もう、うんざり。ワクチンを打った者勝ち」という心理が働いていると読む。この自治体では5月半ばから、個別接種と集団接種を併用して事業を進める。延べで高齢者人口の5分の1に当たる件数の問い合わせが寄せられた。少しでも早く打とうと、集団接種を選ぶ人が増えると予測する。[br][br] ▽矢継ぎ早[br] 飲食店での酒類提供の停止など強い措置を含む緊急事態宣言によって、17日間で感染の抑え込みを狙う政府。関係者からは「感染者増の勢いに、どこまで耐えられるか」との声が漏れる。[br][br] 目を向けるのはワクチン事業。専門家の一人は「今後の感染対策は、ワクチンをどれだけ早く普及させるかだ。時間との勝負」とみる。22日時点の政府集計で、3600万人の高齢者に対し1回目の接種を終えたのは約5万1千人にとどまる。[br][br] 河野太郎行政改革担当相は22日、大型連休後の2週間で送るワクチン約1800万回分の各地への割当量を発表。翌23日には「欧州連合(EU)の承認が得られた」と、米ファイザー製ワクチンの輸入を前倒しすると明らかにした。[br][br] 菅義偉首相は23日、高齢者接種は「7月末をめどに終えたい」と時期を明言。態勢強化へ歯科医師による接種を可能とする方針も打ち出した。[br][br] 矢継ぎ早の発信に、野党関係者は実現には課題が多いとして「突然、いろいろ言われても予約は急には増やせない。国は言いっ放しで、あとは自治体に任せたと言わんばかり」と疑問を呈する。[br][br] ▽事業の急所[br] 迅速接種を迫られる自治体。会場でのクラスター(感染者集団)の発生防止は、共通の課題だ。今後、毎週千人ペースで集団接種する大阪府岸和田市は「検温、消毒、待合席の距離など万全の対策で臨む」と強調した。[br][br] さらなる安全対策に乗り出したのは、兵庫県伊丹市。担当者は「当初1日180人に打てると見込んだが、待機場所に余裕をつくるため、90人に減らした」と話した。[br][br] 東京都新宿区は、コロナ患者を受け入れる病院でも集団接種を行う。担当者は、医師が患者の対応に追われた場合に「接種予約を受けた後でも、規模縮小や他の会場に移ってもらう」との代替策を練る。各地では、感染拡大で高齢者が接種会場に出向きにくい状況になるとの懸念も消えない。[br][br] 自治体関係者は「そもそも医師らの1回目の接種も見通しにくいのに、高齢者の接種を急げというのは難易度が高い」と語る。与党幹部は事業の急所を見通す。「4月までの大問題はワクチン不足だった。今後は、接種の人手不足だろう」