天鐘(4月24日)

沢木耕太郎さんといえば紀行小説『深夜特急』。自身を俯瞰(ふかん)した「私」がリュックを担ぎ、湧き上がる興味に身を委ね、異国の雑多な文化に触れる。描写から伝わる、街と人の匂い。読む者を旅に駆り立てた▼初めての冒険は小学生。不意に思い立ち、自宅.....
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 沢木耕太郎さんといえば紀行小説『深夜特急』。自身を俯瞰(ふかん)した「私」がリュックを担ぎ、湧き上がる興味に身を委ね、異国の雑多な文化に触れる。描写から伝わる、街と人の匂い。読む者を旅に駆り立てた▼初めての冒険は小学生。不意に思い立ち、自宅から離れたデパートへ。小遣いをはたいて電車に乗り、1人で街を歩き、異空間に気持ちを高ぶらせた。心に深く刻まれた「旅という病」。全ての始まりとなった▼目的地へ向かう過程にこそ、旅の醍醐味(だいごみ)はあるという。偶然の出会いと発見を楽しむ。予期しない事態に対応する力も育む。人生にも例えられるが、旅は自分の背丈を示す―。エッセー『旅する力』に効用を学ぶ▼間もなく春の大型連休がやって来る。気候も穏やかになり、本来なら旅の絶好の機会である。しかし、やはり、今年も気兼ねなく遠出ができる状況にはならなかった。3度目となる緊急事態宣言の発令である▼春先には「Go To トラベル」の再開を模索する動きすらあったのだが…。変異株を伴う第4波の勢いは増すばかり。宣言の対象は4都府県だが、感染は全国的に拡大。クラスターが続発する青森も例外ではない▼沢木さん曰(いわ)く、思い描いた時点で旅は始まっている。氏の著書を通じた追体験も、来たるべき軽やかな旅への備えになろう。そう考えて今は慎重に、旅情と葛藤する我慢の日々を過ごしたい。