日本政府による東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出決定に強く反発している中国と韓国が共闘する動きを見せている。健康被害を受ける恐れがあるとの表向きの理由とは別に、米国に近づく日本をけん制したい中国と、国内世論を意識し日本に強い姿勢を示したい韓国の思惑も見え隠れする。実際に放出が始まる約2年先まで、長期戦となるのは必至だ。[br][br] ▽難 関[br] 「日本が中韓という重要な隣国の反対を顧みず、一方的に決めたことに強烈な不満を表明する」[br][br] 中国国営通信社、新華社は14日、中韓が局長級の海洋に関する実務協議を同日開き、海洋放出反対が両国の一致した立場だと確認したと伝えた。中国外務省は15日、中韓も加わり処理水を調査する国際チームの設置を要求した。[br][br] 韓国政府によると、この協議体は2019年12月の中韓外相会談で新設に合意していたが、第1回協議をもったのは日本が13日に海洋放出方針を決めた翌日。北京の日本外交筋は「処理水問題で中韓は最大の鍵となる存在であり、難関。このタイミングで会議開催とは…」と顔をしかめた。[br][br] ▽包 囲[br] 中国は、日本が米国に近づき対中包囲網を築く動きに神経をとがらせている。台湾や香港問題にも触れたワシントンでの日米首脳会談に「内政干渉」だと強く反発した。処理水問題では日本に加え、海洋放出決定を「透明性のある取り組み」(ブリンケン米国務長官)と支持した米国にも「国際社会を落胆させた」(中国紙の識者評論)と批判の矛先を向ける。[br][br] 一方「日欧やオーストラリアなど主要な米の同盟・友好国が軒並み反中化する」(中国雑誌記者)情勢の中で、韓国だけは貿易の結び付きや北朝鮮問題への影響力を考慮して中国批判を控え、習近平国家主席の訪韓も望む。中国にとって韓国は、日米と向き合うために引きつけたい存在だ。[br][br] ▽逆 風[br] 韓国では海洋放出方針決定後、ソウルの日本大使館前で抗議集会が連日行われるなど反対世論が噴出。文在寅(ムンジェイン)大統領は14日、国際海洋法裁判所への提訴検討を指示した。[br][br] しかし韓国政府は、海洋放出は「科学的に問題はない」との趣旨の報告書を昨年まとめている。7日にソウル・釜山(プサン)市長選で与党が惨敗し、文氏の支持率も低迷するなど逆風にさらされているだけに「世論が悪化したから日本たたきに出たのではないか」(野党議員)との声も出ている。[br][br] 放出阻止へ米国の協力が期待できない中、韓国政府には中国は強力な援軍だ。米中の一方に肩入れしすぎない「両面外交」の旗を掲げる文政権は、中国との関係強化に活用したい意図もありそうだ。(北京、ソウル共同)