日米両首脳が共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性」を盛り込んだ。菅義偉首相が中台問題への関心を表明した背景には、台湾支援に動くバイデン政権の要求があった。台湾への圧力を強める中国に向き合う覚悟を問われ、日米協力を一段上のレベルに引き上げる決意を示した形。だが日本は経済面で中国と深く結び付いており、日中関係悪化を避けたいとの思いも強い。対立する米中間で板挟み状態の日本に、緊張を増す台湾情勢が重くのしかかる。[br][br] ▽極秘[br] 「ハンバーガーを食いながら話そうということだったが、全く手を付けないぐらい2人で話に入っちゃった」。首相は米東部時間16日にワシントンで開かれた日米首脳会談の後、バイデン大統領との初対面の様子を記者団にこう説明し、信頼醸成が図れたとアピールした。同行筋によると、男子ゴルフのマスターズ・トーナメントを制した松山英樹選手が話題に上り、盛り上がったという。[br][br] だが共同声明を巡る折衝の舞台裏で首相サイドは、台湾明記を求める米側と「機微」(首相周辺)なやりとりを繰り広げた。台湾の民主主義を中国から守る決意を示す米国と、台湾の立場を理解しつつも日中関係への影響を懸念する日本との間には温度差があるためだ。[br][br] 関係者によると、米国の国家安全保障会議(NSC)で対アジア政策全般を仕切るキャンベル・インド太平洋調整官が首相訪米に先立ち極秘来日し、日本政府高官と協議。一連の交渉を通じ、声明の内容について(1)台湾を直接名指しせずに「台湾海峡」と表現する(2)中国との対話の重要性にも触れる―とする方向で折り合ったとみられる。[br][br] 中台問題が主要課題に浮上した背後には、中国による台湾侵攻が否定できないとみる米軍の危機感がある。「台湾有事が起きれば、近接する沖縄も巻き込まれ、日本が国家的窮地に陥る」(防衛省幹部)のは明らかだ。[br][br] ▽傾斜[br] 「台湾海峡」への関与を巡り日米は、3月の安全保障協議委員会(2プラス2)共同文書に明記済み。首脳共同声明に52年ぶりに盛り込んだことで、政治的重みは格段に増すことになる。台湾は「心からの感謝」(外交部報道官)を表明した。[br][br] 首相が中国対策で新たな対米協力に踏み出した背後には、安倍晋三前首相と麻生太郎副総理兼財務相の進言があった。当初は「米側に寄りすぎると、対中外交への影響は避けられない」(政府関係者)とする慎重論にも留意していたが、台湾情勢を日本の安全に関わる問題とみて対処すべきだとの持論に立つ首相経験者2人の意見に、徐々に傾斜したようだ。[br][br] 関係閣僚も首相訪米へのお膳立てを整えた。岸信夫防衛相は16日の記者会見で、中台の軍事バランスについて「中国側に傾いている。しかも毎年その差が拡大している」と述べ、日米による台湾支援の必要性を示唆した。自民党保守層からは評価する声が上がる。秋までに実施される衆院選に向け、強気の姿勢を見せて世論の支持を得たいとの思惑がちらつく。[br][br] ▽硬化[br] 今後の課題は対中外交だ。中国側は反発している。在日中国大使館(東京)は中国側が日米両国に厳正な申し入れを行ったと明らかにした。対日姿勢を一層硬化させる展開も予想される。首相はバイデン氏との共同記者会見で「それぞれが中国と率直な対話を行う必要もある」と述べ、対中配慮をにじませたが、奏功するかは見通せない。