天鐘(4月18日)

このところ満開の桜に気を取られ、足元がおろそかになっていた。目線を落とすと、枯れ地にも色が戻りつつある。日当たりが良い場所で、ツクシが競うように背伸びをしている。拙宅の庭で見つけた小さな春▼春は山菜がうれしい。フキノトウ、タラの芽、タケノコ.....
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 このところ満開の桜に気を取られ、足元がおろそかになっていた。目線を落とすと、枯れ地にも色が戻りつつある。日当たりが良い場所で、ツクシが競うように背伸びをしている。拙宅の庭で見つけた小さな春▼春は山菜がうれしい。フキノトウ、タラの芽、タケノコ、ワラビ…。もちろんツクシもその一つである。野山に自生する天与の恵みは、四季の移ろいを伝える旬の味。いにしえから人々の営みのそばにあった▼「春の皿には苦味を盛れ」という。独特の風味の正体は植物性アルカロイド。老廃物を排出し、新陳代謝を促進する。沈滞の冬から活動の春へ、体のスイッチを入れる。やはり、ことわざは理にかなっている▼ツクシはビタミンEやカロテンも多く含む。節にある「袴(はかま)」を取り除き、さっと湯に通す。冷水にさらして、あくを抜く。おひたし、天ぷら、つくだ煮、卵とじも、栄養豊富と知れば、さらにありがたく感じる▼正岡子規は東京でもたびたびツクシ狩りに興じたという。ほろ苦い味に里への想いを重ねたのだろうか。松山市の旧邸跡に建つ歌碑に〈くれなゐの梅散るなへに故郷につくしつみにし春し思ほゆ〉と刻まれる▼ツクシが姿を消せば、厄介なスギナが生えてくる。雨が上がったら、傘を開いて胞子を飛ばさぬうちに摘み取って、ついでに根も掘り起こそう。難儀だが、庭がきれいになる。楽しい晩酌も待っている。