天鐘(4月7日)

700にも及ぶ手塚治虫さんの作品に、たびたび登場するキャラクターがいる。風体は必ずチューリップハットに口ひげ。教師、通行人、ホームレスと役回りは様々。『鉄腕アトム』など出演は多く、独特の存在感を放つ▼モデルは三戸町が生んだ漫画家・馬場のぼる.....
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 700にも及ぶ手塚治虫さんの作品に、たびたび登場するキャラクターがいる。風体は必ずチューリップハットに口ひげ。教師、通行人、ホームレスと役回りは様々。『鉄腕アトム』など出演は多く、独特の存在感を放つ▼モデルは三戸町が生んだ漫画家・馬場のぼるさんである。2人は同年代で、志を掲げて切磋琢磨(せっさたくま)した間柄。生まれや育ちが違っても、互いに地位を確立しても、進んだ道が異なっても、生涯にわたって気脈を通じた▼児童漫画は代謝が激しい。手塚さんは意欲作を次々と発表、時流を創った。馬場さんは表現を追究、絵本の世界へ。30年の歳月を費やして『11ぴきのねこ』全6作を完成させた。刎頸(ふんけい)の友の歩みは対照的でもある▼馬場さんのタッチは柔らかく、温かい。ふるさとが投影されているようで、日本的な何かを思わせる。「あんな線、僕には描けない」。一見してそれと分かる世界観に、漫画の神様も魅了された▼馬場さんが命を吹き込んだねこたちは、好奇心旺盛で自由気まま。悪さもするが憎めない。人間の強さと弱さを描きながらも、教訓は振りかざさない。「子どもたちを笑顔に」。ユーモアに徹した▼きょうは馬場さんの20回目の命日。ささくれ立つ時代にあって、ほのぼのとした作風が染みる。これからも愛され続けるであろうベストセラー。絵本を通じて子どもに注いだまなざしは、いつまでも優しい。