北朝鮮が東京五輪不参加を決めた。新型コロナウイルス対策で国境を封鎖し選手団派遣は困難との見方が強まっていたが、突然の決定報道は日本側には寝耳に水。コロナ禍は拉致問題解決を狙う日朝関係にも影を落とし、対話の糸口をつかみたい菅義偉政権の淡い期待は砕かれた。聖火リレー初日にはミサイルを発射。五輪期間中の挑発行動への懸念も高まる。[br][br] ▽狙い撃ち[br] 「世界的な保健危機から選手たちを保護するため、委員らの提案で参加しないことを討議、決定した」。北朝鮮体育省が運営するウェブサイト「朝鮮体育」は6日朝、北朝鮮オリンピック委員会総会に関する短い記事の末尾で東京五輪への不参加決定を明らかにした。[br][br] 日本政府が6日午前の閣議で北朝鮮への独自制裁2年延長を決定する直前を狙い撃ちしたかのようなタイミング。聖火リレー初日の3月25日には日本海に向け約1年ぶりに弾道ミサイルを発射し、同じ日の総会で五輪参加見送りを決めていた。[br][br] 朝鮮中央通信は翌26日に総会開催を報じたが、東京五輪には触れていなかった。日本政府当局者は「まだ3カ月以上ある。(2018年の)韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪も直前にばたばたと参加が決まった」と望みをつないでいたが、冷や水を浴びせられた。[br][br] ▽練習できず[br] 直接の理由は説明通り、コロナ対策とみられる。医療体制が脆弱(ぜいじゃく)な北朝鮮は外国との往来を徹底遮断し、事実上の鎖国に。国内の感染者はゼロだと主張し、国民保護を強調する金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記にとって、連日多数の感染者が出ている東京に選手団を送る選択肢はもとよりなかった。[br][br] 集会や人の移動を厳しく制限、食糧事情の悪化も伝えられる。代表選手らの練習風景を間近に見たこともある元労働党幹部の脱北者は「まともな訓練はできていないはずだ。五輪に参加したくても参加できる状況ではないだろう」と語る。[br][br] ▽エスカレート[br] 日本政府は、北朝鮮の参加を拉致問題進展の好機と位置付けていた。「北朝鮮とつながる有効なルートを持っていない」(外交筋)ためだ。平昌五輪で金正恩氏の妹、金与正(キムヨジョン)氏が韓国を訪れ、文在寅(ムンジェイン)大統領と会談した経緯を踏まえ、五輪の場での日朝接触への期待も出ていた。だがそれもついえ、行き詰まり感だけが漂う。[br][br] 官邸筋は「開幕3カ月以上も前に不参加と言うのは早過ぎる。政治的なメッセージが込められている」と分析。コロナ対応だけでなく、日本への不満の表明だとみる。[br][br] 日本政府筋は「日本は独自制裁を続けている。北朝鮮が五輪のために、のこのこ東京に行けるかと考えてもおかしくない」と指摘する。政府内では北朝鮮の融和姿勢を引き出すため「五輪休戦のように、期間中だけでも制裁中断や緩和に踏み切るべきだ」(関係者)との声もあった。[br][br] 不参加表明が関係悪化を反映しているのは間違いない。北朝鮮関係筋は「菅政権は対話、対話と言いながら、具体的な提案をしてくるわけでもない。安倍政権の敵視政策をそのまま踏襲している」と語る。[br][br] 日本政府内で懸念の声が漏れるのは、五輪に背を向けた北朝鮮による挑発行為だ。防衛省幹部は「五輪期間中の弾道ミサイル発射など行動をエスカレートさせる恐れはある。米韓と連携しながら警戒を続ける」と強調した。