天鐘(4月5日)

東映の映画『トラック野郎』シリーズに、田中邦衛さんは違った役で2度出演している。最初は主人公と同じ、ご意見無用のトラック運転手。2度目はそれを取り締まる警察官である▼食っていくためのやむを得ぬルール違反にも警察は容赦ない。情け無用の反則切符.....
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 東映の映画『トラック野郎』シリーズに、田中邦衛さんは違った役で2度出演している。最初は主人公と同じ、ご意見無用のトラック運転手。2度目はそれを取り締まる警察官である▼食っていくためのやむを得ぬルール違反にも警察は容赦ない。情け無用の反則切符に邦衛さんが吠(ほ)える。「市民の安全を考えろだと。どこに市民がいるんだよ。金持ちと貧乏人の二通りじゃねえか」▼逆に警官役では、その法を破る車を徹底的に追う。「貴様のような不良運転手がいるから交通戦争はなくならねえんだ」。つばを飛ばしての熱演である。正反対の役。だが、共に深い感情移入ができた、不思議な人だった▼火を噴くような演技が一転したのが、代表作の『北の国から』。雪の北海道で子供の成長を優しく見守る父親になった。木訥(ぼくとつ)とした語り、真っ直ぐな思い。全国の人々の心を揺さぶり、涙を誘った▼存在感。その言葉がもっともふさわしい役者だろう。炎のように熱いせりふも、消え入りそうな声でさらす男の弱さも魅力的だった。日常に戻れば寡黙な照れ屋。「こんな貧相な男が、多くの幸せな出会いに恵まれた」▼あくの強いキャラクター故、物まねもされた。それも広く愛された名優の証しだろう。思えば今の俳優たちは皆、スマートになった。その身に濃厚な昭和の匂い。「あばよ」と小さく手を振って、強烈な個性派が去って行った。