天鐘(3月24日)

『源氏物語』は世界最古の長編小説とされる。平安の貴族社会で、複雑に絡み合う人間関係。恋模様のみならず、人生の苦楽を繊細な表現で描く。虚構でありながら現実的。その普遍性が不朽の名作たるゆえんである▼作者はご存じ紫式部。千年もの時を超えて愛され.....
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 『源氏物語』は世界最古の長編小説とされる。平安の貴族社会で、複雑に絡み合う人間関係。恋模様のみならず、人生の苦楽を繊細な表現で描く。虚構でありながら現実的。その普遍性が不朽の名作たるゆえんである▼作者はご存じ紫式部。千年もの時を超えて愛される、世界的にも希有(けう)な存在である。幼少の頃から類いまれな学才を発揮し、大変な読書家だったらしい。宮仕えをしながら、文学の新たなジャンルを生み出した▼秋が深まると、枝に沿って小さな実を鈴なりにつける。紫珠(しじゅ)とも称される「ムラサキシキブ」である。光沢を帯びる清楚な紫色が目を引く。その名前は文字通り、かのベストセラー作家からの連想である▼「聡明」の花言葉も。賢いだけでなく、洞察力に長(た)け、そして人格者。かくありたい―と辞書をめくっていたら、あることに気付いた。最上級の褒め言葉なのだが、前後に文字を付け足した途端に意味が反転してしまう▼「小聡明(あざと)い」。ずる賢い、思慮が浅い、たちが悪い、と総じて否定的である。計算高く嫌みな人物は源氏物語にも登場する。一方、近ごろ耳にする「あざとかわいい(可愛い)」はモテる秘訣というから面白い▼小聡明いは賛辞? 「素晴らしい」も好ましい意味に転じたのは明治以降である。乱れも指摘されるが、言葉は時代とともに。不変の価値を有する名作を読み返しながら、言葉の妙を思う。