2021年公示地価は訪日客激減で観光地が軒並みマイナスの反動に見舞われるなど、新型コロナウイルス感染症の影響を色濃く反映した。ただ、駅近くの便利な地域や再開発エリアは安定した人気で上昇し、明暗を分けた。コロナ禍がもたらした移住需要や、インターネット通販拡大を受け、新たな土地の選別も進んでいる。[br][br] ▽急降下[br][br] 金沢市の繁華街・片町地区に位置する商業地は、前年の13・6%上昇から9・8%下落に急降下した。旅行客減少、住民の外出自粛が重なり、空き店舗が増加。地元の不動産鑑定士は「北陸新幹線の開業以降、ホテル建設や店舗出店が活発だった分、大きな反動が出た」と指摘する。[br][br] 温泉の街、大分県別府市の商業地もプラス10・7%からマイナス2・4%へ。老舗ホテルの倒産もあり、市旅館ホテル組合連合会は「今年2月は宿泊施設の稼働率が10~20%程度に落ち込み、先が見通せない」と嘆く。[br][br] 高松市の住宅地平均はマイナス0・4%で4年ぶりの下落。雇用の不安定化が響き、分譲地の値崩れも目立った。[br][br] ▽開発ラッシュ[br][br] 福島市や山口市、佐賀市の商業地平均はいずれもプラスを維持した。幹線道路沿い、再開発が進む駅前の需要が堅調だった。山形市の住宅地平均は2・5%上昇。商業施設近くが人気で、札幌、仙台、広島、福岡の地方圏主要4市を除く県庁所在地で上昇率1位だ。[br][br] プロ野球日本ハムの新球場が23年に開業する北海道北広島市も好調。球場を核にホテルや娯楽施設などが並ぶ「ボールパーク」をはじめ開発ラッシュで、北広島駅から150メートルの商業地は12・0%上昇。17・7%上がった住宅地もあり、市幹部は「雇用や人口の増加につなげる」と意気込む。[br][br] 一方、リモートワークの普及もあり、東京都は今年1月まで7カ月連続で転出者が転入者を上回る「転出超過」。より良い住まいを求め、移住する動きが目立つ。一部住宅地が10・0%上がった長野県軽井沢町の不動産会社には移住希望者の問い合わせや来店が増え、担当者は「需要に供給が追いつかない」という。[br][br] 静岡県熱海市の住宅地も1・3%上昇。地元の不動産会社「伊豆太陽ホーム熱海店」によると、成約者は30~40代の子育て世帯が急増した。NPO法人「ふるさと回帰支援センター」の嵩和雄副事務局長は「近くに引っ越す感覚で都外に移り住む人が増えた」とみる。[br][br] ▽チャンス[br][br] 工業地もコロナの影響がくっきりと表れた。全国平均はプラスながら、全地点の3分の1は下がった。自動車産業が基幹の三重県鈴鹿市の工業地平均は前年の0・2%プラスから0・6%マイナスへ転じた。「新規設備投資が大きく後退した」(国土交通省)[br][br] 対照的に、外出自粛で広がるネット通販で物流施設の用地需要は旺盛。高速道路へアクセスしやすい千葉県松戸市、福岡県筑紫野市の地点はともに10%超上昇した。[br][br] 29・1%上がった沖縄県豊見城市の地点は那覇空港に近く、周辺土地は続々と売れた。大和ハウス工業は東京ドーム2・6個分に当たる延べ床面積12・3万平方メートルの物流施設を建設中。担当者は「海外への物流拠点として着目している。チャンスがあれば開発を続けたい」と話した。