天鐘(3月21日)

“彼”はいつも道路脇に立っていた。警察官を模した人形。無表情でドライバーに警告を発している。初めて見た時は肝を冷やして、次第に気を留めなくなると、いつの間にか撤去されていた。昭和の思い出である▼ヒトは慣れる生き物。心理学の解説本によると「馴.....
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 “彼”はいつも道路脇に立っていた。警察官を模した人形。無表情でドライバーに警告を発している。初めて見た時は肝を冷やして、次第に気を留めなくなると、いつの間にか撤去されていた。昭和の思い出である▼ヒトは慣れる生き物。心理学の解説本によると「馴化(じゅんか)」と呼ぶ。たとえ強い刺激でも、繰り返されれば鈍感になる。車の走行音も花火の爆発音も、何度も耳にして危険がないと判断すれば、気にならなくなる▼刺激の頻度が高いほど馴化しやすい。強い刺激に馴化すると、多少のことには反応しない。だが、刺激に変化を加えれば新奇性は回復する。「脱馴化」はマンネリも防ぐ。教育、企業活動と応用の幅は広い▼感染者数が微増傾向にあるのは、馴化による危機感の薄れなのか。まん延防止措置の創設は、脱馴化の妙手になり得るのか。コロナ禍で発せられた2回目の緊急事態宣言が、2カ月半ぶりに全面解除される▼初めての宣言は1年ほど前。にぎわいと人影が消えた街は、戒厳令の様相すら呈した。そして今、第4波の入り口との懸念もあるが、雰囲気は異なる。緩み? 疲れ? 諦めならば深刻である▼馴化とは環境への「適応」でもある。未曽有の危難の中でマスク、消毒、3密回避と行動変容に努めてきたはずである。再燃阻止へ、国には万全の対策を求める。そして自分の大切な人のためにも、手綱を締め直したい。