天鐘(3月18日)

茶色のようで、オレンジ色に似て、金色にも見える。セピア色は「ごく暗い赤みの黄」と定義される。古びた写真は懐かしい記憶。たそがれ時は美しくも儚(はかな)げで情感を誘う。光と影を帯びて、どことなく物語性を伴う▼辞書を引くと、セピアはイカ墨から作.....
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 茶色のようで、オレンジ色に似て、金色にも見える。セピア色は「ごく暗い赤みの黄」と定義される。古びた写真は懐かしい記憶。たそがれ時は美しくも儚(はかな)げで情感を誘う。光と影を帯びて、どことなく物語性を伴う▼辞書を引くと、セピアはイカ墨から作った絵の具。古くからインクや染料として使われた。半透明の黒は光を浴びて時がたつと、赤茶けたように色があせる。古い時代を回顧する意味合いを持つ色でもある▼〈浜の方は靄(もや)でセピヤ色になった。いい景色だ〉。夏目漱石の『坊ちゃん』の一節にある。街を包んだのは文豪が描いた幻想的な靄にあらず、深く濁ったセピア色。中国発の映像に自然の猛威を知る思いがした▼目の前ですら、ぼやけてしまうほどの黄砂。ここ10年で最大規模だという。ゴビ砂漠は世界有数の乾燥地帯。雪解けが早く進み、気温も高かった。そこに強風が重なり、吹き上げられた砂ぼこりが大陸を覆った▼頻度と被害は拡大傾向にある。一因とされるのが砂漠化の進行だ。開発に伴う森林伐採、過度の放牧による土地の劣化、そして温暖化。厄介な春の風物詩は、単なる自然現象でなく、深刻な環境問題でもある▼温室効果ガス、海洋汚染、生物多様性もしかり。放置したままでは、豊かな暮らしが過去形になってしまう。気象にも環境にも国境はない。やはり地球はセピア色でなく、青い星であってほしい。