16日で発足半年を迎えた菅内閣は、新型コロナウイルス対策をはじめ危機管理で後手に回る場面が目立った。菅義偉首相の独断が遠因となった面は否めず、「菅流」に潜む危うさが露呈。首相を支える参謀役は不在で、官邸の「チーム力の弱さ」という構造上の問題も透ける。首相が関心を持つテーマが内政に偏り、外交や安全保障政策の進捗(しんちょく)度と差が生じかねないとの懸念も出ている。[br][br] ▽お決まり[br][br] 「私に引き取らせてくれ」。官邸で2月下旬に開かれた新型コロナ関係閣僚会合。首相は首都圏での緊急事態宣言解除の要否を巡り、こう告げると席を立った。首相が自身への一任を念押しして終わるのが会合の「お決まりのパターン」という。[br][br] だがこのトップダウン式が奏功しているとは言い難い。典型例は観光支援事業「Go To トラベル」と緊急事態宣言を巡る判断だ。 観光振興を重視する首相の同事業へのこだわりは強い。感染「第3波」が本格化しつつあった昨年11月20日。感染症対策分科会が運用見直しを求めたが、首相は一部地域の除外にとどめる「小出し対応」で粘り続けた。[br][br] 首相がよりどころにしていたのは、ひそかに取り寄せた独自の感染者数予測データだった。自身に近い専門家がまとめたとされる。「感染者数はこれから減る」。12月14日に同事業の全国一時停止を表明した後も、データを基に周囲に自信を見せていた。だが甘い見通しはすぐに崩壊。新型コロナの猛威は収まらず、1月7日の宣言再発令へ追い込まれた。[br][br] ▽生返事[br][br] 政策遂行に当たり情報収集など「自己完結」を志向する首相。政権内に修正を求める動きがなかったわけではない。[br][br] 「ご自分で何でもやろうとしないことです」。1月上旬、官邸。麻生太郎副総理兼財務相は首相にこうくぎを刺した。首相は「そうなんですけどね」と「生返事」(官邸筋)しただけだった。[br][br] 麻生氏は昨年末、首相秘書官を交代させるべきだとも助言した。官房長官時代からの横滑りで若い秘書官が多く「耳の痛い話が届かない」(政府筋)と映ったためだ。だがその後も大幅入れ替えの兆しはない。自民幹部は「首相が官僚を登用する基準は、自分のやりたいことに従うかどうかだ」と指摘する。[br][br] 総務省幹部への接待問題を巡り、山田真貴子前内閣広報官の辞職の判断も遅きに失した。NTT社長らが今月15日の参院予算委員会に参考人招致され、収拾の見通しは立たない。閣僚の一人は「官邸の『チーム菅』は機能していない」と嘆く。[br][br] ▽丸投げ[br][br] 首相は元々「携帯電話料金引き下げなど身近なテーマで一点突破するのが得意」(官邸幹部)だけに、興味の薄い分野が停滞する事態も現実味を帯びる。不得手とされる外交は独自色に乏しく、外務省に「丸投げ」(政府関係者)なのが実態だ。政権幹部は、経済重視の首相が中国寄りにシフトしかねないと不安視。「米国とどう向き合うか常に頭の片隅に置いてほしい」と首相に伝えた。[br][br] 安保分野も推進力を欠く。司令塔である国家安全保障会議の4大臣会合の開催頻度は安倍前政権からほぼ半減した。[br][br] 「自ら取り仕切る」政権をつくり上げた首相。ただ強権的運営に陥っているとの指摘はやまない。自民ベテランはこう危惧する。「正確な判断ができず失敗を重ねれば、世論は一気に離反する」