中央省庁が民間デジタル人材の採用に本腰を入れている。ITに精通した人材が不足し、システムの開発や運用を事業者に丸投げしてきたことが、デジタル政策の停滞を招いたことへの反省からだ。9月のデジタル庁創設を前に「内側からの改革」が動き始めた。[br][br] ▽有志勉強会[br][br] 「あいまいな要件のままシステムを発注したせいで、ニーズにマッチせず使えないものになる事態がたくさん起きていた」。電力系のシステム会社で18年間働いた後、経済産業省に転職した宮部麻里子さんは役所仕事の問題点をこう指摘する。[br][br] 経産省は2018年7月に「デジタル・トランスフォーメーション室(DX室)」を設置し、システム開発を統括する民間人材の募集を始めた。任期が最長5年の非常勤で、年収は800万~1千万円程度と公務員より高めに設定。これまでに12人が加わった。[br][br] 宮部さんは企業の補助金の電子申請システムを担当。行政と発注先企業の間に立ち、試作段階でのテストや運用開始後の継続的な改善など、省庁の一般的な開発スタイルとは異なるやり方で使い勝手を向上させた。[br][br] 農林水産省は19年10月にデジタル政策推進チームを発足させ、補助金の申請システムや業務の効率化を進める即戦力として2人を採用した。[br][br] コンサルティング会社から転じた阿部明香さんは、省内の有志を集めてデータ活用の勉強会を開催。昨年11月に一部の作物に関する収穫データの公開方法が改善された。統計部の職員が「視覚的で分かりやすい情報発信」を狙って新しいソフトを活用した成果だ。[br][br] ▽1%未満[br][br] 20年度の経済財政白書によると、国や自治体など公的部門に属するIT人材は全体の1%に満たない。新型コロナウイルス対策の接触確認アプリ「COCOA(ココア)」で不具合が見つかった問題でも、システムの開発・運用を事業者任せにしていたことが原因の一つに挙げられている。[br][br] デジタル庁は丸投げ体質からの脱却を目指し、職員500人のうち100人超を民間から登用する方針。4月に予定する30人の先行採用には1400人超が応募した。他省庁でも数人の枠に数百人が申し込むなど、実は行政の場で働くことに関心を持つエンジニアは多い。阿部さんが農水省に移ったのも「行政であれば日本や産業全体を変えることに携われる」と前向きに考えたからだ。[br][br] デジタル庁の採用アドバイザーも務めるITベンチャー「LayerX(レイヤーエックス)」(東京)の石黒卓弥いしぐろたかや執行役員は、コロナ禍でデジタル化への機運が高まり、民間エンジニアが行政分野に参画する動機になっているとみる。「失敗を許容し、失敗から学ぶ文化をつくること、(民間から官庁に)入った人が小さくてもいいので成功体験を持つことが大事だ」と指摘した。