天鐘(3月9日)

その昔、米は“菩薩(ぼさつ)様”と呼ばれていた。神様や仏様の食べ物と信じられ、とても農民の口に入るようなものではなかった。死に際に耳元で、一握りの米を入れた竹筒を振り、音だけを聞かせて冥土に旅立たせたという▼東北に限らず冷涼地帯に残る「振り.....
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 その昔、米は“菩薩(ぼさつ)様”と呼ばれていた。神様や仏様の食べ物と信じられ、とても農民の口に入るようなものではなかった。死に際に耳元で、一握りの米を入れた竹筒を振り、音だけを聞かせて冥土に旅立たせたという▼東北に限らず冷涼地帯に残る「振り米」の悲話である。米や麦の主穀を除く粟(あわ)、稗(ひえ)、稷(きび)などの疑似穀類を雑穀と呼ぶ。南部地方では昭和の初期まで稗が食卓を支えた▼白飯は盆と正月だけ。普段は7割の稗に米を混ぜた「稗飯」が主食で、焼き鰯(いわし)やとろろ汁がご馳走だった。冷害に強くて保存が利き、馬の飼料にもなる稗が南部の“主穀”だった(正部家種康著『南部風土記』)▼農村部で雑穀と米が逆転したのは昭和30年代以降。耐冷水稲品種の登場や灌漑(かんがい)による新規開田の促進、馬産の衰退で雑穀は見る影もなく激減した。だが、ここへ来て時代は米+プラス雑穀ブームの真っ只中だという▼タンパク質を多量に含む優れた栄養価、癌などを防ぐ抗酸化機能や食物繊維が豊富な健康食品として価値が大きく見直されている。米10キロは高くても5千円程度だが雑穀は消費地で2万円の高値を呼んでいるとか▼寒村の印象はとうに消え、岩手県北や青森県南では五穀米や十穀米など付加価値満載の高級穀物として生産されている。手間暇が掛かる割に反収は上がらず、希少な宝石のように輝く雑穀である。今日は語呂合わせで「雑(3)穀(9)の日」。