国が昨年公表した日本海溝・千島海溝沿いを震源とする巨大地震モデルを踏まえ、岩手県は2021年度末までに、最大クラスの津波が発生した場合の県内の津波浸水想定を策定し、公表する。今回のモデルでは、東日本大震災を引き起こした地震の北側に震源域が設定されていることもあり、県北地方の沿岸部は震災を上回る津波も想定される。震災10年を迎える中、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震は新たな脅威になりそうで、県や関係市町村は早急な対策を迫られている。[br][br] 県の浸水想定は、震災後に国が定めた「津波防災地域づくり法」に基づき、震災を含む過去の地震の被害なども照らし合わせて、最大クラスの津波の浸水区域や水深を設定する。[br][br] 県河川課の担当者は「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデルでは新たな知見が示されており、防災上重要な資料」と説明。「さまざまな想定や計算が必要で作業量は多いが、21年度末までの公表に向けて準備を進めている」と話す。[br][br] 昨年4月に示された今回のモデルでは、宮古市以北で震災を超える津波が想定される地点があった。県北沿岸部の最大津波高は、洋野町19・9メートル、野田村18・0メートル、久慈市16・0メートル。国の浸水想定区域図は、住民不安をあおる事態を懸念した地元の意向で、岩手分のみ半年遅れで公表された。[br][br] その区域図では、野田村役場が地震発生から43分後に8・2メートル、久慈市役所が90分後に5・3メートル、洋野町役場が89分後に1・3メートルの浸水に見舞われるとした。[br][br] 久慈市の場合、防潮堤などが壊れる最悪のケースでは、38カ所ある津波避難場所のうち15カ所が浸水する可能性がある。市文化会館・アンバーホールや市防災センターも浸水想定域内となり、震災後に整備した津波避難タワーが活用できない恐れも。市立久慈湊小の移転改築は、建設候補地の安全性が不透明となり、延期を余儀なくされている。[br][br] 市は4月ごろまでに新たな避難所を指定、21年度中に総合防災ハザードマップを更新する方針だが、防災対策は大幅な見直しを迫られそうだ。田中淳茂市消防防災課長は「被害想定の大きさに戸惑っている」と明かしつつ、「ハード整備には時間がかかる。ハザードマップ更新や避難場所の見直しなど、ソフト対策から進めたい」としている。[br][br] 震災で甚大な被害を受けた野田村では今後、県が策定する詳細な浸水想定を基にハザードマップを更新する方針。小田祐士村長は「防潮堤などのハード事業は完成したが、予想を上回る津波は必ず来る」と冷静に受け止め、「揺れたらまず逃げる、という大原則を繰り返し伝えていくしかない」と強調する。[br][br] 洋野町も、県の浸水想定などを踏まえ、ハザードマップや防災計画の見直しを進める考えだ。[br][br][br] 日本海溝・千島海溝地震 東日本大震災の震源を含む東北沖から北海道・日高沖に続く「日本海溝」と、十勝沖から千島列島沖にかけての「千島海溝」では、マグニチュード(M)7~8級の地震が過去に多発している。政府は北海道から福島にかけての1道4県の沿岸部などにある市町村を対策推進地域に指定。2020年4月に内閣府が示した巨大地震モデルでは、東日本大震災より震源が北部となる、岩手県から北海道の海溝沿いの最大クラスの地震を想定した。