新型コロナウイルス緊急事態宣言を巡り関西圏など6府県の前倒し解除が決まる一方、首都圏は見送りとなった。月内の全面解除が念頭にあった菅義偉首相にとって、東京都などの感染者数減少鈍化や病床使用率高止まりは「大きな誤算」(官邸筋)。6府県の解除についても専門家から時期尚早との指摘が噴出し、感染「第4波」のリスクが潜む中での見切り発車だったのは否めない。[br][br] ▽急変[br][br] 「首都圏が付いてこられなかった」。先週に続き、今週に入ってからも首都圏の感染状況改善が限定的となり、首相は悔しそうに周囲に語った。[br][br] 直近7日間を平均した1日当たりの東京の感染者数が、解除の目安の500人をクリアしたのは2月11日。官邸内には「下旬に全面解除できる」(首相周辺)との楽観論があっただけに、わずか2週間で急変した形だ。[br][br] 首都圏と関西圏などの東西で判断が分かれた理由は、感染者数の推移や医療現場の逼迫ひっぱく度だ。25日時点の内閣官房の最新集計では、「ステージ4(爆発的感染拡大)」の目安の一つとなる病床使用率は千葉県は54%、埼玉県は50%。神奈川県は30%と落ち着きつつあるが、県担当者は「予断を許さない」と訴える。[br][br] 関西圏などの解除前倒しは病床使用率が50%を下回ったことが材料。大阪府の担当者は「危機的状況は脱した」と語った。一方で「もろ手を挙げて賛成と言えない」(日本医師会の中川俊男会長)など慎重論が渦巻く。[br][br] ▽ちゃぶ台返し[br][br] 今回の宣言で、飲食店に絞った感染対策を打ち出した首相。「成功」演出のため、指標が改善していた関西圏などの解除は譲れない一線だった。西村康稔経済再生担当相らは感染状況のさらなる好転を目指すべきだとして慎重姿勢を示したが、はやる首相が知事らの要請を盾に押し切った。[br][br] 病床使用率の改善スピードが遅いとの見方がある福岡県に関してはぎりぎりまで両論が対立。官邸筋は「福岡は諮問委員会の専門家に、ちゃぶ台返しされる恐れがあった」と明かす。最後は首相が決断を下した。[br][br] 一方、首相は関西圏などの先行解除調整と並行し、あるプランを温めていた。26日の関西圏などの先行解除発表と同時に、首都圏を3月7日の宣言期限で解除すると明らかにする案だ。[br][br] 待ったを掛けたのは、感染症対策分科会の尾身茂会長だった。「首都圏解除の事前公表は絶対無理だ」。緩みによる感染リスクの増大を恐れた尾身氏はこう反論した。[br][br] 諦めない首相は、西村氏に説得を指示したが、尾身氏は首を縦に振らず、同時発表案は立ち消えとなった。[br][br] ▽リバウンド[br][br] 先行解除に踏み切る一方で記者会見を開かない首相のちぐはぐさに、与野党双方から批判が噴き出した。会見で司会を務める山田真貴子内閣広報官が首相長男の接待問題で「炎上」する中、野党は「山田氏隠し」(立憲民主党幹部)と猛反発。自民党中堅も「コロナ対応の節目なのに、センスがない」と突き放した。[br][br] 26日の諮問委では「なぜ前倒しで解除するのか」などの意見が続出。メンバーの釜萢敏日本医師会常任理事は「首都圏もかなり懸念が多い。1週間後に解除できるとは思わない」と言い切った。[br][br] 政府の観光支援事業「Go To トラベル」の全国再開への道は遠いとの声も出る。大東文化大の中島一敏教授(感染症疫学)は「関西などは前倒しせず3月7日まで待つべきではなかったか。リバウンド(感染再拡大)が危ぶまれる」と警鐘を鳴らした。