有罪判決が確定した後のやり直し裁判(再審)について定めた刑事訴訟法などの規定を現代に則した新しい「再審法」に改正するべきだ。最高裁が先月、袴田事件で出した審理差し戻し決定など相次ぐ再審事件を見ると、その思いを強くする。[br][br] 刑訴法は、無罪などを言い渡すべき「明らかな証拠を新たに発見した場合」などに再審を開始すると定めるが、確定判決で使われた証拠の保存・閲覧や再審手続きの進め方などの規定がない。このため日弁連が法整備を求める決議をするなど改正の機運が高まっている。[br][br] 現行制度には大きな問題点が三つある。[br][br] 第1は、検察側には、有罪確定の裁判では提出しなかった証拠を再審請求人側に開示する義務がないことだ。外国では警察・検察が集めた証拠は全面的に開示しなければならない制度がある。しかし日本では元被告の無罪につながる証拠があっても請求人側が知ることは難しい。刑事裁判では「疑わしきは罰せず」が原則だ。適切な証拠開示があってこそ原則は生きる。[br][br] 第2の問題点は、裁判所から再審開始決定が出された場合、検察側が上級審へ即時抗告をしたり、最高裁へ特別抗告をしたりすることができる今の仕組みの見直しだ。外国では開始決定が出れば再審を始める国や、検察側の抗告を厳しく制限する国がある。検察側の抗告が長期化を招く面があり、刑訴法に制限規定を置くのが望ましい。いったん開始決定が出れば有罪の根拠が揺らいだとも言え、再審を始めるべきだろう。[br][br] 第3は、再審開始要件の厳しさだ。証拠の偽造・変造、虚偽証言などの証明が必要とされるが、何十年も前の確定記録などはないケースが多い。条件の緩和が必要だ。2016年の刑訴法改正では、付則に「再審請求審における証拠開示についての検討義務」が盛り込まれた。しかし努力義務にとどまり、国に目立った動きはない。[br][br] こうした中、近年は松橋事件(熊本)、湖東記念病院事件(滋賀)で再審無罪が確定するなど社会が注目する事件が続いている。今こそ法改正を進め、問題を克服するべきだ。裁判員裁判では弁護側が検察側に手持ち証拠の一覧を請求できる制度が導入され役立っている。これらも参考にできる。[br][br] 各界から公表された国への提言はまだある。科学鑑定試料の保存・利用の制度化、捜査・公判に誤りがあった場合に原因を調査・分析する第三者委員会設置などだ。冤罪(えんざい)救済を急ぎたい。