天鐘(1月9日)

橋の手前に立て札があった。「このはしわたるべからず」。周りの人が困り顔なのに、小さなお坊さんは意に介さない。端でなければ問題なし―と真ん中をズンズンと突き進む。当然と言わんばかりに渡りきった▼ご存じ一休さんの頓知話である。江戸時代に刊行され.....
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 橋の手前に立て札があった。「このはしわたるべからず」。周りの人が困り顔なのに、小さなお坊さんは意に介さない。端でなければ問題なし―と真ん中をズンズンと突き進む。当然と言わんばかりに渡りきった▼ご存じ一休さんの頓知話である。江戸時代に刊行された『一休咄(ばなし)』に始まり、現代ではアニメや絵本に。無理難題を切り返す数々の逸話は痛快。きょうは一休(1・9)さんにちなむ「とんちの日」だという▼丸刈りで愛くるしく利発。そんなイメージが強いものの、肖像画を見る限りでは、ひげ面に深いしわが刻まれて物憂げ。一休宗純は室町時代を生きた実在の人物。88歳でその生涯を閉じた風狂の禅僧である▼後小松天皇の落胤(らくいん)とも伝わる。権力を嫌い、それにすがる宗門を厳しく批判した。清貧を貫いて、戦乱や飢えに苦しむ民衆に寄り添った。煩悩を肯定し、酒、肉、女性を愛した。波瀾(はらん)万丈の人生は自由自在でもあった▼希代の破戒僧は死後200年を経て物語の主人公に。多くは権力者をやり込め、さらに鋭く社会を斬る。実話だけでなく、脚色や伝聞も入り交じる。やはり庶民の願望も反映された一休像なのだろう▼頓知は機に応じて即座に働く知恵、困難を克服する効果的な解決策でもある。だからこそ思わずうなる。ただ、一休さんの人気が現状に対する不満の裏返しだとしたら…。昨今の政治にも通じる気がする。