天鐘(12月23日)

年の瀬が押し迫ってきた。華やかなクリスマスに心が躍る。先が見えない大掃除にため息。師走の風物詩は多様である。そして年末といえばあの時代劇。「忠臣蔵」が描く義は古くから人々の琴線を震わせてきた▼実際にあった江戸時代の元禄赤穂事件を題材とした創.....
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 年の瀬が押し迫ってきた。華やかなクリスマスに心が躍る。先が見えない大掃除にため息。師走の風物詩は多様である。そして年末といえばあの時代劇。「忠臣蔵」が描く義は古くから人々の琴線を震わせてきた▼実際にあった江戸時代の元禄赤穂事件を題材とした創作。江戸城・松の廊下における刃傷沙汰で即日切腹、お家断絶となった藩主の無念を晴らすべく、赤穂浪士が蜂起して敵を討つ。おなじみの筋書きである▼人形浄瑠璃、歌舞伎、ドラマ、演劇、小説と作品は数知れず。切り口や演出は様々だが、敵役の吉良上野介は大概が憎々しい。しかし所縁(ゆかり)の地では様相が異なる。「忠臣蔵はご法度に近い」とは山形出身の知人▼米沢藩の上杉家、高家の吉良家の結び付きは深い。2代藩主の娘が上野介に嫁いだのが始まり。両家が跡継ぎ不在に陥った際は、互いに養子を出して危機を乗り越えた。「三重の縁」と呼ばれるゆえんである▼違和感を覚えるのは物語の仕立て。一方的な勧善懲悪との受け止めが大勢だという。悪評を記す史料も残るが、愛妻家で治水に尽力したとも伝わる。最近発見された長女宛ての書状からは優しい父の顔が浮かぶ▼悪人のレッテル貼りに、女子プロレスラーが自死した悲劇を想起した。ネット上での誹謗(ひぼう)中傷を招いたのは一面的な決めつけ。実像の理解を放棄し、歪(ゆが)んだ正義感をぶつけるのは決して善人でない。