広辞苑で「おもう」を引くと「一説に面(おも)を活用させた語」とある。元々は感情がぱっと出るという単純な言葉だったが、意味を調べると「…の顔つきをする」に始まり、「判断する」「愛する」など多岐にわたる▼顔である「面」の動詞化で、素朴な日本語の「おもう」が中国の漢字に出会い、さまざまな「おもい」を概念化できるようになった(白川静監修『漢字は楽しい』)▼「思う」は「田」が頭脳の形で憂鬱(ゆううつ)な様。「念(おも)う」の「今」は物に蓋(ふた)をする形から気持ちを抑える。「懐おもう」は死者の襟元に涙して哀悼する。漢字との出会いで「面」に表情が生まれ、心情も帯びるようになった▼3200年の歴史を持つ漢字は、古代中国の殷(いん)王朝で亀の甲羅に刻んだ甲骨文字が始まり。周代にかけて青銅器に鋳込んだ金文(きんぶん)や、秦の始皇帝の小篆(しょうてん)という字形を経て、漢代に今の書体に近い漢字が誕生した▼日本最古の漢字は471年の稲荷山古墳鉄剣銘(埼玉県)。後の仏教伝来で大量の仏典がもたらされ、進化を遂げて「和の心」になった。今日12月12日は漢字の日。最後に阿辻哲次著『漢字三昧』から豆知識を―▼宋代の辞書に「○」は記号ではなく漢字「星」の異体字で載っている。『大漢和辞典』の最多画数は「多言」を意味する64画の「●」。新聞の活字はなく特別に作字してもらった。果たして判読できるか?。8万語超の中の2字である。[br][br]※「●」は「龍」を縦横二つずつ並べた漢字で、読み方は「テツ」