天鐘(12月3日)

北奥羽地方の暮らしで歓迎されないもの。春から夏にかけてのヤマセだろう。冷たい風が霧を伴い、沖から吹走して野山を覆う。季節感が狂い、日差しもなく気がめいる。冬の底冷えにも劣らず寒さが身にこたえる▼「ケガジ(飢饉(ききん))は海から来る」。長く.....
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 北奥羽地方の暮らしで歓迎されないもの。春から夏にかけてのヤマセだろう。冷たい風が霧を伴い、沖から吹走して野山を覆う。季節感が狂い、日差しもなく気がめいる。冬の底冷えにも劣らず寒さが身にこたえる▼「ケガジ(飢饉(ききん))は海から来る」。長く続けば深刻な食糧難をもたらす。江戸時代の4大飢饉では東北を中心に多くの人命が失われた。現代においても1993年の「平成の大冷害」でコメの緊急輸入を余儀なくされた▼先人は歴史を教訓にアワ、ヒエ、キビ、麦といった雑穀を栽培する。粒を砕き、調理法を考え、より豊かな食を生み出した。当地方に伝わる粉食は、命をつないできた生活の知恵でもある▼せんべい、串もち、かっけ、あずきばっと、まめぶ、けいらん…。挙げればきりがない。寒くなると特に恋しくなるのは具だくさんのひっつみ。ふうふうと頰張ればツルッと喉が喜び、香る出汁(だし)が体に染み渡る▼小麦粉を練った生地を薄く伸ばして「引っ摘(つ)む」。それを熱々の鍋に放り込むから「とってなげ」とも。同一視されることも少なくないが、やはりすいとんとは違う。12月3日は語呂合わせで「ひっつみの日」▼厳しい気候風土ゆえに、人々はそれに立ち向かい、文化を育んできた。素朴で味わい深い郷土食もその一つに違いない。おばあちゃんから子や孫へ。巣ごもりの冬ならば、次世代に継承する好機にしたい。