天鐘(11月16日)

没後10年となる八戸市出身の芥川賞作家・三浦哲郎さんの随筆に『おふくろの夜回り』がある。寒い冬の夜、寝静まった家族の寝床を毎日見て回っていた母親のことを綴(つづ)っている▼中の冷気を追い出すために、布団の肩口を「ほた、ほた」と優しくたたいて.....
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 没後10年となる八戸市出身の芥川賞作家・三浦哲郎さんの随筆に『おふくろの夜回り』がある。寒い冬の夜、寝静まった家族の寝床を毎日見て回っていた母親のことを綴(つづ)っている▼中の冷気を追い出すために、布団の肩口を「ほた、ほた」と優しくたたいて行くのが日課だった。三浦さんならではの表現と共に、昔の北国の暮らしや、母親の家族に対する愛情が伝わってくる一編だ▼名高き文豪の子供時代に比べて、今は住宅の機密性が格段にアップした。寝室へのすきま風もほとんどない。北海道の家などは徹底的に外気を遮断し、室内なら冬は日本で一番暖かいとも言われている▼その北海道で新型コロナが猛威を振るっている。このところ感染者が急増して、再び緊急事態の様相だ。もっとも、不気味なのは北の大地に限らない。立冬過ぎの列島で陽性者が相次ぐ。これが第3波かと身がすくむ▼寒くなれば換気がおろそかになり、ウイルスがとどまってしまう―。夏場からの専門家の指摘が現実になりはしないかと心配だ。高い機密性があだとなっては意味がない。年明けからの長期戦によるコロナ疲れも気に掛かる▼本格的な寒さへ向かう。せっかく暖めた空気を逃がしてやるのはつらいが、ここはこまめに心がけたい部屋の換気だ。全体を密閉すれば確かに暖かい。だがコロナの冬に限れば、室内の「ほた、ほた」の調節具合が鍵となる。