タイで大規模な反政府デモが収まらず、政府側が非常事態宣言を発令して鎮圧を図るなど、情勢は緊迫している。[br] デモは、大学生が中心となって主導、中高生も加わる。会員制交流サイト(SNS)を駆使しながら「全員がリーダーだ」と参加を呼びかける香港のスタイルを取り入れた。学生たちは、軍出身のプラユット首相の辞任のほか、憲法改正、王室の改革を要求している。[br] タイでは2014年のクーデターで軍が実権を握った。昨年春の総選挙で民政移管したものの、軍政トップだったプラユット氏が首相に就いた。[br] 3年前に軍政下で制定された憲法は、軍に有利な規定となっている。上院の250議席は事実上、軍の任命だ。下院の500議席中、150議席は中小政党に優先的に配分され、軍の対抗勢力となる有力政党の台頭を防ぐ仕組みをとっている。[br] 軍部を批判し、若者の支持を集め、総選挙で大躍進を果たした野党「新未来党」が、今年2月に解党させられた。このため、実態は民政移管になっていないとの反発を招き、反政府デモのきっかけとなった。[br] 今回のデモで特徴的なのは、絶対的な権威を持ち、議論さえもタブー視されてきた王室の改革を掲げている点だ。具体的には、不敬罪の廃止、王室予算の削減、政治への不介入などを求めている。不敬罪は、王室の名誉を傷つけると最高で禁錮15年が科せられる。[br] 国民から敬愛されていたプミポン前国王が4年前に死去した後、王室への不満が強まっていた。ワチラロンコン現国王が、大半を別荘のあるドイツで過ごし、王室財産を自らが管理するよう制度変更し、王室の予算を大幅に増やすなどしたからだ。[br] 学生たちの行動の根幹には、国王の権威の下で民主的議会制と軍事政権が共存する「タイ式民主主義」が揺らぎ、政情不安が続く中、真の民主主義を確立したいという強い思いがある。[br] プラユット首相は学生らの要求を突き放す。事態収拾を話し合う臨時国会が開かれたが、政府側は学生らの訴えには実質的に応じず、プラユット氏も辞任を拒否した。逆に政府側は非常事態宣言を年末まで延長し、反政府デモの抑制を図っている。[br] 政治混乱の収拾を図ってきたプミポン国王亡き後、現国王への批判が上がっている状況下で、軍とデモ隊との間で懸念される流血事態を避けなければならない。そのためにも政府は学生らの民主化要求に真摯(しんし)に応えるべきだ。