菅義偉首相が所信表明演説で温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を宣言した。既に約120カ国がこの目標を掲げている。日本は世界5位の排出大国だが、「50年目標」では80%削減の方針だった。出遅れ感は否めないが一歩前進ではある。[br][br] ただし、目標を掲げるだけなら簡単で、政府には目標達成の本気度が問われる。相互に整合性があって具体的なエネルギー政策と詳細な工程表を示さなくてはならない。[br][br] パリ協定は産業革命以前からの気温上昇を1・5度に抑えることを目指している。実現には50年までに世界の温室効果ガス排出量を、森林吸収分などを差し引いて実質ゼロにする必要がある。[br][br] ここ数年、強大な台風に襲われた日本だけでなく世界各地で異常気象が頻発。「気候危機」が顕在化していた。一方でパリ協定参加の全ての国が削減目標を達成しても今世紀末には3・2度も上昇するとの予測が出され危機感が広がっていた。[br][br] 欧州主要国が昨年末まとめた「欧州グリーンディール」は、さまざまな対策を組み合わせて実現可能性に説得力があった。中国は先月、「60年に実質ゼロ」の目標を発表するなど、日本の消極姿勢が際立っていた。[br][br] 今回の菅首相の表明を国内外向けのアピールで終わらせてはならない。削減目標を据え置いて3月に再提出した「30年度に13年度比26%削減」の数値をまず見直し、目標値の大幅上積みが求められる。欧州主要国が基準にしている1990年比換算ではわずか18%減だった。[br][br] 日本の二酸化炭素の約40%は発電部門が占める。それなのにエネルギー基本計画で石炭火力を「ベースロード電源」と位置付け、30年度の電源構成比は火力全体では56%になる。[br][br] 現状はどうか。日本は太陽光や風力などの再生可能エネルギーの本格導入が遅れている。現在、再生可能エネルギーの構成比は20%に満たない。[br][br] 基本計画の見直し作業が始まっている。現行計画では30年度でも20%台。これを大幅に増やし、かつ実現しない限り「50年実質ゼロ」は「夢物語」に終わる。[br][br] これからの道は容易ではない。大容量蓄電池の開発や発電設備の高効率化などの技術的課題も多い。国の総力を挙げて多種多様な対策を積み重ね、結果を出さなければならない。社会、経済構造の大転換が必要で、菅首相は今回、国の大事業を主導する責任を負った。