天鐘(10月30日)

ぎょろ目と無口で有名だった作家の川端康成。若い頃、彼の家に泥棒が侵入した。室内を物色中、寝床から睨(にら)み付ける川端の目と目が合った。鋭い眼光に威圧された泥棒は「駄目ですか」と言うなり、外に逃げ出した▼吉行淳之介が『川端康成伝』に書いてい.....
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 ぎょろ目と無口で有名だった作家の川端康成。若い頃、彼の家に泥棒が侵入した。室内を物色中、寝床から睨(にら)み付ける川端の目と目が合った。鋭い眼光に威圧された泥棒は「駄目ですか」と言うなり、外に逃げ出した▼吉行淳之介が『川端康成伝』に書いている。川端は泥棒を家に泊まっていた梶井基次郎と勘違いしたらしい。「コートを盗まれては困る」と思い睨み付けていたとか▼円(つぶ)らだが闇であの目がギラリ光ったら怖い。梶井も「睨まれたら薄気味悪い」と認めた。眼光炯々(けいけい)黙して語らない彼と膝を突き合わせる事になった若い女性編集者は、30分で泣き出し帰ってしまった―との逸話も▼「この世で一番怖いのは無言」との格言もある。相手が相槌(あいづち)もなく腕組みしたら…。商談のディール(取引)でも使われる“荒技”だ。沈黙で不安に陥れてから難題を吹っかけると相手は大概譲歩するという▼この圧力が効果的に使われているのが監視カメラだ。無言でも監視されていると感じるだけで、鬱(うつ)病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症するケースもある。時に警察権力よりも強い抑止力になるらしい▼円らな瞳と言えば菅義偉首相。学術会議の新会員任命拒否問題では「多様性が大事」とはぐらかす。口数が少なくぎょろ目が怖い。“無言の圧力”の先にあるのは何か? などと忖度(そんたく)すること自体、既に術中にはまっているのかも。