【連載・決断の行く末 動き出す高レベル処分地選定】(1)波紋

最終処分場選定に向けた文献調査への応募の報告で梶山弘志経済産業相(右)を訪ねる片岡春雄町長=9日、東京
最終処分場選定に向けた文献調査への応募の報告で梶山弘志経済産業相(右)を訪ねる片岡春雄町長=9日、東京
函館市から北へ約120キロ。日本海に面する、人口約2900人の小さな港町の住民にとって、今年のお盆は穏やかに過ごせる状況にはならなかった。 「寿都(すっつ)町が調査応募検討」―。8月13日、高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場選定に.....
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 函館市から北へ約120キロ。日本海に面する、人口約2900人の小さな港町の住民にとって、今年のお盆は穏やかに過ごせる状況にはならなかった。[br][br] 「寿都(すっつ)町が調査応募検討」―。8月13日、高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場選定に向けた文献調査の応募に対する、片岡春雄町長の前向きな姿勢が報じられたからだ。[br][br] 町内の50代女性はその日からよく眠れない夜が続いている。「福島の原発事故で国を信用できないという思いが強くなった」。突然の町長の発言と原子力政策への漠然とした不安が胸をざわつかせているという。[br][br] 過去に起きた地震の履歴などを資料に基づき調べる文献調査は、受け入れると2年間で最大20億円の交付金が支給される。次の段階の概要調査に進むには知事の意向も反映されるが、文献調査だけなら市町村長の判断で応募が可能だ。[br][br] 報道以降、町は文献調査応募に関する住民説明会を複数回開催した。ただ、住民の不安感が解消されたとは言い難いのが実情だ。[br][br] 無職の女性(71)は子どもたちの将来に関わるとして「住民にアンケートも取らないで勝手に決めていいのか」と訴える。住民投票を求める声は多いが、片岡町長は「肌感覚で賛成が多い」として応じない姿勢を貫き、10月9日に原子力発電環境整備機構(NUMO)に文献調査を応募した。[br][br] 片岡町長はその日、報道陣の取材に「今、賛成も反対も色分けする必要はないと思う。ラグビーで言えばノーサイドだ」と強調。独特の言い回しで、文献調査にかかる2年の間に、住民全員で処分場問題を学んでいく意義を説いた。[br][br]   ■   □[br] 寿都町の応募検討報道から1カ月後の9月中旬。今度は、町から北に約40キロ離れた神恵内(かもえない)村の商工会が、文献調査への応募を求める請願を村議会に提出したことが明るみになった。[br][br] 神恵内は道唯一の原発が立地する泊村に隣接している。神恵内村役場近くで飲食店を経営する男性が「原発が近いからアレルギーは少ないだろう」と話す通り、寿都と比べると反対の声は多くない。[br][br] 村内の商店役員で村商工会理事の岡田順司さん(38)は、約10年前から応募を求める動きがあった―と明かす。村の人口は約800人。高齢化率は4割を超え、道内の他の市町村と比較しても際立って高い。[br][br] 村内の商工事業者のうち、岡田さんのような後継者がいる店は他にないという。「急速な過疎を止めるために、交付金で地域振興策を考えていくべきだと思う」と誘致に動いた理由を説明する。[br][br] 寿都、神恵内の両町村に共通するのは、人口規模が小さく、漁業などの第1次産業が中心といった地方ならではの特徴だ。少子高齢化に歯止めがかからない中、新型コロナウイルスが地域経済を直撃している。[br][br] 取材を切り上げようとすると、岡田さんはぽつりと語った。「僕らも処分場を誘致すればいいとは思ってないですよ」。その言葉に「村のためには仕方がない」という複雑な思いが透けて見えた。[br][br]   □    ■[br] 北海道の寿都、神恵内の両町村が文献調査の実施を決めた。六ケ所村に一時貯蔵される高レベル廃棄物の最終処分場選定問題は解決に向かうのか。選定議論の行く末を展望する。最終処分場選定に向けた文献調査への応募の報告で梶山弘志経済産業相(右)を訪ねる片岡春雄町長=9日、東京