東京証券取引所で、株価など相場情報を配信するシステムに1日、障害が発生し、株式全銘柄の売買が終日停止した。デジタル化の推進を看板政策として掲げる菅義偉政権にとって、教訓とすべき事象ではないか。[br][br] 株式市場は内外の投資家による資産形成や、企業の資金調達の場として活用されている。政府がアジアの中心的な国際金融センターへの発展を目指している東証で発生した前代未聞の事態は、国際的な市場としての信頼を大きく失墜させた。[br][br] さらに東証は、金融システムを支える中心に位置し、経済の流れをつかさどる重要な社会インフラだ。そこで発生したシステム障害は、データとデジタル技術を活用して人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させていく「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を進める上での不安要素と言える。[br][br] 東証によると、障害は株式売買システム「アローヘッド」内部で発生したもので、株価など相場情報の配信ができなくなった。しかも、障害時にシステムが自動的に切り替わるはずだったバックアップへの移行も不能になった。システムを回復させるために再起動処理を行う手段があったが、未成立の注文を巡って投資家や市場参加者の混乱を招く恐れがあるため、東証は終日売買停止の措置を決めたと説明している。[br][br] 取引は2日再開された。障害の原因について、東証は「アローヘッド」内の共有ディスク装置のシステム設定に問題があったと説明し、調査委員会を設置して再発防止策に取り組む。[br][br] システム障害が大きな混乱へとつながったことは、本格的なDX時代へ向かう動きに警鐘を鳴らしたと捉えるべきだ。[br][br] 政府は、国と地方を包括した行政サービスのオンライン化や、マイナンバーカードを軸として国民に年金や各種給付金の申請・受け取りなどをオンラインで行う仕組みづくりを目指している。複数の省庁に分散しているデジタル化にかかわる政策を一元的に管理する「デジタル庁」の創設に向け、「デジタル改革関連法案準備室」を設置し、態勢を整えた。[br][br] だが、国民の間にはデジタル化、オンライン化に伴う個人情報流出などへの懸念や政府への不信感は根強く残っている。構築したシステムでの障害発生は避けがたいことだ。問題は瞬時にバックアップが作動して被害の発生を防止できるかだ。東証の障害から教訓を得て、政府には安心・安全なデジタル化への道筋をたどってもらいたい。