【世界のJOMONへ】第4部 見えてきた登録(4)先行事例から学ぶ

橋野鉄鉱山の高炉について説明する藤原信孝事務局長=8月下旬、岩手県釜石市
橋野鉄鉱山の高炉について説明する藤原信孝事務局長=8月下旬、岩手県釜石市
4道県17遺跡で構成する「北海道・北東北の縄文遺跡群」は、連続性のある複数遺産を一括申請する「シリアルノミネーション」で世界文化遺産登録を目指している。4道県の一つの岩手県には既に、日本で初めてシリアルノミネーションとして世界文化遺産になっ.....
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 4道県17遺跡で構成する「北海道・北東北の縄文遺跡群」は、連続性のある複数遺産を一括申請する「シリアルノミネーション」で世界文化遺産登録を目指している。4道県の一つの岩手県には既に、日本で初めてシリアルノミネーションとして世界文化遺産になった資産がある。同県から鹿児島県まで8県23資産で構成する「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の中の「橋野鉄鉱山」(釜石市)だ。[br] 産業革命遺産は、幕末から明治期にかけてわずか半世紀で、西洋の技術と日本文化が融合し、重工業分野の急速な産業化を実現させた過程を時系列に示す遺産。中でも橋野鉄鉱山は、鉄鉱石が採れる山や水車を回す川があるなど製鉄に好条件な環境に恵まれ、近代製鉄の初期・発展段階において重要な役割を担った。現在は、現存する最古の洋式高炉跡が3基残る。[br] シリアルノミネーションは構成資産が点在しているという特徴がある。23資産のうち、長崎県に最多の8資産があり、九州や中国地方に21資産が集中。ほかには静岡県1、岩手県1と残り2資産は距離的にかなり離れている。釜石市文化スポーツ部世界遺産課の森一欽課長補佐(47)は「野球のように各ポジションがいて成り立つのがシリアルノミネーションのイメージ。橋野だけでは世界遺産にはならないが、鉄を語るのに橋野鉄鉱山は欠かせない」と強調する。[br] 23資産で一つという意識を大切にするために、毎年、各資産のガイドの交流会を実施。釜石観光ガイド会の藤原信孝事務局長(72)は毎年参加し、ガイドの際は「橋野で作った鉄の塊は、韮山(にらやま)(静岡県)の反射炉などで溶かして大砲にしていた」と他の資産と関連付けて説明するよう意識している。[br] 藤原さんは「ガイドなしで鉄鉱山を見回しても首をひねって帰るだけという人が7、8割だと思う」と指摘。そのため、来場者には鉄鉱山の手前にあるインフォメーションセンターに立ち寄ることを薦めている。[br] センター内では資産の価値や登録までの道のりなどをパネルで展示しているほか、ガイドの申し込みや、音声で説明が流れるガイドペン、当時の復元映像が見られる仮想現実(VR)用のタブレットを借りることができる。[br] 橋野鉄鉱山の来場者は、「登録元年」の15年は約4万人に上った。翌16年は台風10号の影響で、鉱山まで行く道が崩れて約9千人に落ち込んだが、その後は約1万3千人でほぼ横ばい。本格的な発掘調査を開始した06年ごろに約500人だったことを踏まえると、“世界遺産効果”は絶大だ。[br] ただ、ガイドの高齢化や持続的な資産管理など課題は多い。森課長補佐は「資産は100年後もある前提だが人口は減少していく。細く長く、時には打ち上げ花火のような存在感のあるイベントなどを行いながら、価値を発信していかなければならない」と強調。[br] 橋野町振興協議会の菊池成夫さん(78)は「鉱山のことは小さい頃から知っていたが、世界遺産になるとは夢にも思わなかった。いい冠をもらったからには、それに恥じない環境を整備していきたい」と意気込む。橋野鉄鉱山の高炉について説明する藤原信孝事務局長=8月下旬、岩手県釜石市