2012年9月の尖閣諸島(沖縄県)の国有化から8年が過ぎた。今年は4~8月初めまで中国海警局の船が尖閣周辺で過去最長の111日連続で航行したり、日本漁船を追尾したりするなど動きを活発化させ、日本が中国に抗議した。[br] 春の習近平国家主席の国賓来日は新型コロナウイルスのため延期された。中国によるコロナの情報隠蔽(いんぺい)や香港への統制強化も重なり、日本の中国への国民感情は悪化し、自民党内では対中強硬論が高まった。[br] 米中新冷戦が激化する中、日米同盟を基軸としつつも隣の新興大国、中国と良好な関係を築くことは極めて重要だ。次期政権は率直な対話を通じて、尖閣を巡る示威をやめ、長期的な友好関係を結ぶよう中国に粘り強く働き掛けていきたい。[br] 尖閣の領有を主張する中国は国有化に反発し、両国関係は著しく悪化した。17年6月、安倍晋三首相は習氏が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」に条件付きで支持を表明。これをきっかけに関係改善が進み、19年6月、両首脳は習氏の国賓来日に合意した。[br] しかし、習政権は対米関係の悪化やコロナ流行の中で、国民の関心を国外にそらすかのように強硬な「戦狼(せんろう)外交」を展開した。4月以降、尖閣周辺の公船の航行を増やしたほか、対インド国境で軍事衝突を起こし、南シナ海でミサイルを発射して米国をけん制した。[br] 習氏は今世紀半ばまでに「世界一流の軍隊」を持つ「社会主義近代化強国づくり」を目標に掲げる。だが、戦狼外交は日米欧や周辺諸国などの警戒と軍備増強を招き、自国に不利益をもたらすことを知るべきだ。[br] 次期首相候補の菅義偉官房長官は安倍外交を継承する方針。互恵の経済をてこに関係修復を図った安倍氏の対中外交については一定の評価ができる。 だが、安倍氏が前向きな姿勢を示した敵基地攻撃能力の保有は、相手に軍備増強の口実を与えて軍拡競争という「安全保障のジレンマ」を招く恐れがあり、慎重に対応する必要があろう。[br] 自民党内で、習氏来日に反対する声が強まっているが、意見の相違があるからこそ会って話し合う意味がある。来日に向けて仕切り直しは必要だが、首脳会談の機会は大事にしたい。[br] 次期政権は中国の動きと思惑を冷静に分析する一方、対話を通じて、中国を世界の平和や民主主義を守り、安定した経済力を持つ「あらまほしき大国」の方向へ誘導する戦略的な外交を進めてほしい。