安倍晋三首相が2012年12月に第2次政権を発足させてから2799日が経過、連続在職日数で佐藤栄作を抜き、歴代最長となった。[br] 安倍首相の自民党総裁としての任期は来年9月末までで、在職日数はさらに大きく伸びる可能性もある。一方で、首相に対する国民の視線は厳しさを増すばかりだ。[br] 「安倍1強」という数の力による強引な政治手法に対する批判に加えて、政府、与党の不祥事は後を絶たない。そして新型コロナウイルスという未曽有の国難に直面する中、首相は十分な指導力を発揮できず、逆に健康不安説が広まっている。[br] 長期政権によるひずみが噴出、安倍政権は次第に勢いを失い、長く高水準を維持してきた内閣支持率も急降下。一時は取り沙汰された自民党総裁4選もという臆測はすっかり消え去り、自民党内の関心はすでに「ポスト安倍」に移っている。[br] 第2次安倍政権の7年8カ月を支えてきた要因は金融緩和を柱としたアベノミクスと、「多弱」状態に陥った野党陣営の体たらくだろう。これらにより、特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認と安全保障関連法といった国論が大きく分かれる政策を次々と強引に進めても政権基盤が揺らぐことはなかった。[br] そして直近の3度の衆院選と3度の参院選で自民党を圧勝に導き、1強体制を築いてきた。[br] だが、首相が成果を誇示してきた経済政策も今や先行きに暗雲が漂う。12年12月に始まった景気拡大は18年10月に終わっていたことを政府自身が認めており、米中摩擦とコロナ禍に追い打ちを掛けられている。デフレ脱却の目標に掲げた物価上昇率2%は実現できそうにない。[br] 政権の重要課題と位置づけてきた北朝鮮の日本人拉致問題やロシアとの北方領土問題は一向に動きだす気配はない。執念を燃やしていた任期中の憲法改正も絶望的な状況になっている。[br] 安倍氏が残そうと考えていたであろう政治的遺産(レガシー)を事実上の残り任期約1年で実現するのは不可能のようにみえる。では、有終の美を飾るためには何をすべきなのか。[br] 今、国民が一番求めているのはコロナによって陥った危機的状況から抜け出すための政治のリーダーシップだ。首相はその先頭に立たなければならない。[br] まずは自らの言葉で直接国民に対する説明責任を果たすとともに、臨時国会を召集して与野党でコロナ対策を中心に濃密な議論を展開することが最低限必要だ。