天鐘(8月25日)

釈迦仏の弟子に周利槃特(しゅりはんどく)がいる。物覚えが悪く自分の名すら忘れてしまうほど。愚かさに涙を流し途方に暮れる槃特に、釈迦は一本の箒(ほうき)を渡し、「塵(ちり)を払わん、垢(あか)を除かん」と教えた▼彼の掃除好きを見越した釈迦の配.....
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 釈迦仏の弟子に周利槃特(しゅりはんどく)がいる。物覚えが悪く自分の名すら忘れてしまうほど。愚かさに涙を流し途方に暮れる槃特に、釈迦は一本の箒(ほうき)を渡し、「塵(ちり)を払わん、垢(あか)を除かん」と教えた▼彼の掃除好きを見越した釈迦の配慮で、「愚かさに気付いている人が本当に知恵のある人だよ」と諭し励ました。槃特はこの短い言葉さえ忘れそうになりながらも一心に唱え、何年も精舎(しょうじゃ)の掃除に明け暮れた▼やがて槃特は「塵や垢は執着心。汚れが落ちにくいのは人の心も一緒」と悟りを開く。年を取ると物忘れがひどくなる。ど忘れなのか、人の名前や食事の献立が出て来ない。そんな時に頭をよぎるのがこの法話だ▼度々名前を忘れるので「槃特」と書いた幟(のぼり)を背負わされた。やがて阿羅漢という聖者として生涯を閉じるが、墓に奇妙な草が生えた。皆は名前を背負い努力し続けた彼を偲(しの)び、この草を「茗荷(みょうが)」と呼んだとか▼今、そのミョウガが旬だという。南部町産の夏ミョウガは長雨で生育が早まり、既に盆前から出回っている。今年はやや小粒だが質は上々だとか。刻んだミョウガを素麺(そうめん)に添えればシャキシャキの食感が堪らない▼食感と香りが持ち味で味噌(みそ)焼きに甘酢漬けも最高―らしいが、その持ち味が著者を含めて苦手という人も多い。名誉のためにミョウガと物忘れは全くの俗説。むしろ香り成分が記憶を司る前頭前野を刺激して活性するとも。