中国は6月末に制定、施行した香港国家安全維持法(国安法)を使った香港の民主派弾圧を本格化させた。「民主の女神」と呼ばれる活動家、周庭氏(23)と、中国に批判的な香港紙、蘋果日報の創始者、黎智英氏(71)の逮捕に踏み切ったのが象徴的な動きだ。香港警察は両氏を保釈したが、捜査を継続しており、中国本土へ移送する可能性も指摘される。[br] 1989年に北京で起きた天安門事件は武力による民主化運動の弾圧だったが、今、香港で起きているのは、法を用いた確信的で周到な弾圧だ。中国・香港政府は昨年来、高まった運動を封じ込めようと、シンボル的な存在の両氏を訴追して一罰百戒の効果を狙う。[br] 中国が97年の香港返還の際に国際公約した「一国二制度」を根底から破壊する暴挙に住民は反発し、日米欧から非難の声がわきあがった。香港の「自由と民主主義」を求める住民の声と国際社会の支持は根強く、強権によって長期に安定と繁栄を維持するのは難しい。中国は民主派弾圧をやめ、香港の民主化へかじを切るべきだ。[br] 「僕はYesと言わない 絶対沈黙しない 最後の最後まで抵抗し続ける」。周氏は拘束中、日本のアイドルグループ「欅坂46」の「不協和音」が頭に浮かんだと語った。同調圧力に屈しない若者の抵抗の歌だ。[br] 中学生の頃、日本の漫画やアイドルに夢中になり、独学で日本語を勉強。6年前の大規模デモ「雨傘運動」の幹部として注目を集め、その後、政治団体のメンバーとして、日本など国際社会に香港民主化への支持を求める活動を展開した。[br] 黎氏は香港へ密航して裸一貫から衣料品チェーンを創業。天安門事件に抗議して民主化運動支持のTシャツをつくる運動などを展開。香港返還の2年前に蘋果日報を創刊し、四半世紀にわたり対中批判を続けてきた。[br] 香港メディアによると、周氏は国安法施行後に国際社会に中国、香港への制裁を訴えたオンライングループに関与した疑い、黎氏は同グループに資金援助した疑いにより、国安法の「外国勢力と結託し、国の安全に危害を与えた罪」に問われた。[br] 中国は弾圧への批判に対し「香港問題は中国の内政であり、外国勢力の干渉は許さない」(外務省報道官)と繰り返す。新型コロナウイルスの問題もあり、中国の対外イメージは悪化する一方だ。中国は香港住民や国際社会の声に耳を傾け、一国二制度を維持し、普通選挙制の導入など民主化を認めるべきだ。