戦後75年。北奥羽地方でも戦前生まれの世代は減少を続けており、戦後生まれに戦争体験を直接聞かせる機会が少なくなった。戦争の時代を生きた記憶を次世代につなげるための方策を官民で考えたい。[br] 本紙では、日記から昭和史をひもとく『「北」のまなざし』を毎週木曜日の文化面に連載し、戦時中については兵士や勤労動員された中学生、市井の女性などの日記を取り上げている。日記は本来、公開を前提にしていないため率直な思いがつづられており、当時の人々の思いを知る上で貴重な史料となる。[br] 中国大陸に渡った輜重(しちょう)兵佐藤正太郎(現むつ市大畑町出身)は、国家への盲従(もうじゅう)と個の自由の間で思い悩み、酒色に溺れてしまう人間くささを見せる。[br] 女子挺身隊として種差で敵機の来襲を監視する役目を担った八戸市の石橋カネさん(96)は、空襲を気にしつつも、休日に見た映画や演芸の感想や、生煮えだった支那(しな)そばへの不満、髪にパーマをかけるかどうかなど、ほのぼのした日常もつづった。これらはヒットしたアニメ映画「この世界の片隅に」に通じる、「怖い」「暗い」ばかりではない、戦時下の庶民のたくましい姿だ。[br] 総務省の人口推計(2019年9月時点)によると、総人口約1億2617万人のうち、75歳以上は1848万人。終戦時に10歳を超えていた85歳以上は592万人で全体の4・7%に過ぎず、健康状態も考慮すると、戦時中の記憶を語れる人はさらに一握りになるだろう。[br] 戦争の記憶の伝承は、戦争を体験した語り部が担ってきた。一方で高齢化の現状を踏まえると、誰もが重要な記録に触れることができるアーカイブの構築が課題となる。[br] 本紙が取り上げた日記は『青森県史』『新編八戸市史』の資料編に多く収録されているが、文体や用語からも一般市民が読み解くのは難しい。戦争特集の新聞記事は掲載時に切り抜きなどをしていなければ、再び読まれる機会も少ない。[br] インターネットで参考になるのは、NHKの特設サイト「戦争証言アーカイブス」だ。多くの証言や番組、コンピューターグラフィックスを用いた解説が閲覧できる。[br] 青森、岩手両県でも、過去の新聞記事やテレビ番組、存命の方へのインタビュー動画などを集めた「地方版アーカイブ」が構築できれば、長く平和教育にも役立てられるだろう。戦前生まれの証言を集める時間は限られている。