発祥から300年目の八戸三社大祭が開催されている。今年は新型コロナウイルスの影響で、八戸市中心街を彩る山車などの運行が見送られた。祭り関係者や楽しみにしていた観客など、多くが残念な思いをしているだろう。[br] だが、記念の年を苦い思い出だけに終わらせたくない。規模縮小の中でも神社の祭礼行事は実施。発祥の頃を思わせる“原点回帰”の特別な祭りを通して、受け継いできた歴史を見つめ直し、その価値をより高めるきっかけにしてほしい。[br] 日程は例年通りの7月31日~8月4日とした。行事は1日の神明宮の神輿(みこし)渡御休止奉告祭、2日の龗神社と長者山新羅神社それぞれの祭礼のみで、いずれも一般には非公開。沿道で気軽に祭りの魅力に触れられる山車などの運行が見送られ、「祭りは中止」と受け止めた市民も少なくなかった。[br] 青森県内を見渡すと、青森ねぶた祭をはじめとする各地の夏祭りが中止された。新型コロナの猛威は、県南地方で盛んな秋の山車祭りも飲み込んだ。[br] 厳しい状況下で、三社大祭だけがなぜ「開催」を打ち出したのか。それはこの祭りが、五穀豊穣(ほうじょう)を祝う神社の神事を出発点とし、その伝統が今も大切にされているからに他ならない。運営について話し合ってきた関係者には、原点である神社の祭礼行事を中止する選択肢が最初からなかった。[br] 一方、先人が受け継いできた祭りの意義が、市民に忘れ去られようとしている現状も浮き彫りとなった。中止との誤解が広がったのが、その現れだ。[br] 例年であれば、期間中に延べ100万人以上が訪れる県南地方最大の夏祭りである。観光色が強まったことで、本質が見えにくくなったのは事実であろう。半面、観光面で成功を収めているからこそ、地域に広く根付き、市民の誇りとなっているのも現状である。[br] 歴史の価値を高めて観光の魅力を向上させ、観光の盛り上がりが伝統の継承の後押しする。そんな相乗効果を目指したい。[br] 祭りを開催したことで、公式行事とは別に山車組などによる独自企画も生まれた。マチニワで伝統山車を展示するなど、コロナ禍においても新たな在り方を示した。他の行事の参考にもなるだろう。課題を整理し、経験を共有してほしい。[br] 三社大祭を未来へ伝えるためには市民の力が欠かせない。次の時代を担う子どもたちの育成が重要であることは、指摘するまでもない。