大きく二つの理由から、核燃料サイクル政策から撤退すべきと考える。使用済み核燃料再処理工場には事故時の危険性があることが1点目。2点目は高速増殖炉が事実上頓挫し、政策を進める合理的な理由がなくなったことだ。[br] まず、日本原燃に技術的能力があるのか疑問だ。2006年からアクティブ試験に入ったが、トラブルの影響で10年ぐらい稼働していない。[br] 当初は技術を導入したフランスから技術者を招いたが、既に引き上げている。仏国へ研修に行かせると言っているが、事故時に対応できるほどの能力を身に付けられるのかは疑わしい。[br] また、八甲田などの火山が噴火した際の想定では、50センチ程度の火山灰が降り積もるとされる。実際に起きれば、あらゆる設備が機能しなくなり(高レベル放射性廃液が沸騰して起こる)蒸発乾固などの重大事故は避けられない。[br] サイクルの要だった高速増殖炉、あるいは亜流の高速炉の路線は完全に破たんしたと思う。共同で研究していた仏国が先送りして、日本は単独で開発する力も予算もない。高速炉開発は形式上は残っているが、実質的には不可能だ。[br] 再処理工場で取り出したプルトニウムは(軽水炉で燃やす)プルサーマルで利用することとなっていて、通常のウラン燃料より15%程度の資源の節約ができるとされる。[br] しかし、世界にはウラン資源がふんだんにある。資源を15%節約するために、値段がウラン燃料の30~50倍もするような燃料を使う意義は果たしてあるのか。[br] 40、50年代には廃炉が増え、60年ごろには既存の原発の運転期間は全て終わってしまう。福島原発事故後の状況を考えれば、再処理工場があっても、その燃料を使う炉が次々に消えていく事態は想像に難くない。[br] 後になって、高レベル廃棄物の減容化を再処理の意義に挙げるようになったが、その計算に回収したウランやプルトニウムはカウントされていない。肝心のプルサーマルで使い終わった使用済み燃料など、サイクル全体で廃棄物を考えると、減容化につながらないことは明白だ。[br] 福島の事故直後、数年間は原発ゼロで成り立っていた。温暖化の面で原発の必要性という議論になるが、将来的には再生可能エネルギー由来の電気で100%賄うことは可能だろう。[br][br]【略歴】ばん・ひでゆき 早稲田大文学部社会学科卒。脱原発法制定運動の事務局スタッフを経て、1990年に原子力資料情報室スタッフ、95年同事務局長、98年より現職。国のエネルギー基本計画に示された原子力分野に関する方針の具体化を検討する、経済産業省の総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会委員を務める。68歳。三重県四日市市出身。