【連載・再処理工場正式合格「識者の目」】インタビュー(1)東京大大学院 山口彰教授(63)「長期的視点考える段階に/国がビジョン示すべき」

使用済み核燃料再処理工場(六ケ所村)が新規制基準の適合性審査に正式合格した。事業者の日本原燃は操業に向けてハードルを一つ越えた格好だが、現状ではプルトニウムの使い道は限られ、再処理には賛否が渦巻く。核燃料サイクル政策の是非や原燃の品質保証体.....
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 使用済み核燃料再処理工場(六ケ所村)が新規制基準の適合性審査に正式合格した。事業者の日本原燃は操業に向けてハードルを一つ越えた格好だが、現状ではプルトニウムの使い道は限られ、再処理には賛否が渦巻く。核燃料サイクル政策の是非や原燃の品質保証体制、核のゴミ問題について有識者の見解を聞いた。[br][br] 核燃料サイクルは必須の技術開発だと思っている。(燃料の増殖が可能な)高速炉サイクルまで見据えると数千年オーダーで核燃料を確保できる。エネルギーの安全保障上、潜在的恩恵が非常に大きい。[br] 持続可能な社会という観点も重要だ。化石燃料が(一度使えば終わる)ワンウェイなのに対し、サイクルはこれだけで完結する「閉じたシステム」。政策的には、技術を確立することで再生可能エネルギーを導入する時の自由度が広がる。[br] プルサーマルが進んでいないと言われるが、やはり見据えるのは高速炉サイクル。高速増殖原型炉もんじゅの廃止によって開発が停滞しているのは事実だ。[br] 一方、日本は商用原発を始めて50年たち、第1世代の運転がようやく終わるところ。高速炉の位置付けは原発を建て替える過程の政策論であり、意義がなくなったと解釈するのは短絡的な見方だろう。ようやく長期的視点で原子力技術をどう位置付けるかを考える段階になったのではないか。[br] (プルサーマルを導入する)原発再稼働が進まない理由にはプロセスの未成熟さを感じている。東日本大震災後に新しい規制基準ができ、リスク情報の活用といった考え方が積極的に組み込まれたが、規制当局も試行錯誤な部分がある。時間がかかるのはやむを得ない一面がある。[br] 政策の根幹は利用目的のないプルトニウムを持たないこと。しっかりと予見性を持つことだ。民間の電力会社にできることは限られている。国がビジョンを示した上で、海外に対する信頼を訴えていくことに尽きるのではないか。[br] 総事業費が当初の想定より増えていることは問題だろう。ただ震災後、止まった原発の代わりに輸入した化石燃料の費用は年間約3兆6千億円。原子力を止めて払い続けるのと比べれば決して大きい額ではない。[br] コスト面もさることながら、完工が延びてコストが膨らむ状況だと「きちんと事業ができているのか」と皆が思う。むしろ私はこういう方が問題だと思う。[br] 新しいエネルギー計画の議論が本格化していくが、長期的な視点が必要だ。約5年ごとの見直しという政策の区切りは否定しないが、これだとサイクル政策は描き切れない。コストだけでなく技術が立ち遅れるリスク、地政学的リスクも総合的に判断していかなければならない。[br][br] 【略歴】やまぐち・あきら 1984年、東京大大学院博士課程修了。動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)で高速炉研究に従事し、大阪大大学院教授を経て2015年から現職。専門は原子力工学。資源エネルギー庁基本政策分科会委員、同原子力小委員会委員長代理、使用済燃料再処理機構の運営委員などを務める。島根県出身。63歳。