天鐘(7月19日)

店で出来たてをすぐ口に入れられる握り寿司は、短気でせっかちな江戸っ子にはうってつけだった。一方で、そんな江戸の庶民も気長に待った食べ物がある。ウナギの蒲焼(かばや)きだ▼元々、時間の掛かる料理である。捌(さば)きから焼き上がりまで、香の物を.....
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 店で出来たてをすぐ口に入れられる握り寿司は、短気でせっかちな江戸っ子にはうってつけだった。一方で、そんな江戸の庶民も気長に待った食べ物がある。ウナギの蒲焼(かばや)きだ▼元々、時間の掛かる料理である。捌(さば)きから焼き上がりまで、香の物をつまみながら静かに待つのが粋だった。店を急(せ)かしては野暮(やぼ)。「おまちどおさま」の声で、ようやくありついてこそのうまさだったのだろう▼大のウナギ好きで知られたのは斎藤茂吉。残した日記には生涯902回も蒲焼きを食べた記述があるそうだ。かの大歌人ならずとも日本人はウナギを好む。かつては世界の消費量の約7割がその胃袋に収まった▼ウナギの漁獲が心もとなくなって久しい。毎年、土用の丑(うし)が近づくと、乱獲と環境悪化が話題に上る。とはいえ、あのかぐわしい匂いには心揺さぶられる。つい誘われて暖簾(のれん)をくぐってしまうのもまた、人情だ▼今年の稚魚は6年ぶりの豊漁だそうだ。蒲焼きもお安くなる可能性があるというから朗報だろう。それでも、その生態などに謎も多い魚である。将来にわたり安泰な食文化であり続けられるかどうか分からない▼元来、待って楽しむのがウナギ料理である。この先を見つめながら、おいしくいただくために伝統の食のあるべき姿に思いを致したい。絶滅も心配な貴重な資源。その姿に似て、“細くとも長い”付き合いを続けていけるように。