新型コロナウイルス感染の拡大防止のため、政府が要請してきた都道府県境をまたぐ移動の自粛が全面解除された。コンサートなどイベントへの制約も緩和された。[br] コロナ禍で打撃を受けた経済や社会活動が再生に向け踏みだすことになり、旅行客の激減や行事、興行の中止で経営に苦しむ運輸や観光、宿泊、飲食などの業界は収益回復に期待をかける。[br] だがワクチンや有効な治療薬が開発されていない以上、第2波、3波の感染来襲が懸念される。東京都ではなお、新たな感染者が少なからず確認されており、人の移動が増えれば感染リスクの高まりは避けられない。[br] 経済優先で前のめりにも見える「移動解禁」だけにPCR検査や抗原、抗体検査を充実させて感染の有無を早期に識別し、治療や療養など効果的な対応を確立させることが欠かせない。これまでの感染症対策の在り方を十分に検証し、次の事態に備える作業も急務だ。[br] 政府の緊急事態宣言は5月以降に順次解除された。自粛の間、鉄道や航空、観光業界などの客足は大幅に落ち込んだ。出入国制限は徐々に緩和される見通しだが、訪日外国人客の増加は当分見込めそうもなく、観光地などが国内の人の動きに望みを託すのは当然だ。巨額の事務委託費が批判されながらも、国が国内旅行を補助するキャンペーンは8月の始動を目指す。[br] とはいえ新型コロナウイルス感染者には軽症や無症状の人が多いとされ、多数の移動は感染の恐れにもつながる。[br] コロナ感染では、医療崩壊の恐れなどからPCR検査が抑制され、国民の危機感を増幅させた。移動などの自粛解除に伴い、不安があれば医師の判断を前提に検査や医療を受けられる仕組みを早急に整備する必要がある。業界側も感染防止対策に念を入れてほしい。[br] 一方、コロナ禍で経営難に追い込まれた宿泊や飲食業界を中心に倒産が相次ぐ。コロナ関連で解雇や雇い止めに遭った人は2万4千人を超えた。[br] 政府は収入減の中小企業や、全国民への給付金制度などを設けたが、いまだに給付の遅れが指摘される。休業を求めながら不十分な休業補償も国民に不信感を募らせた。[br] 政府には救済対象や手続きなど支援制度の問題点を検証して改善するとともに、再び私権を制限するような場合の根拠を明確にするなど、感染の再拡大に対処できる方策を整える責任がある。