新型コロナウイルス感染症は収束する気配が見られず、世界中の国々が感染拡大防止に腐心している。そうした中で、新しい感染症が頻発した背景には気候変動や生態系の破壊といった地球環境の悪化があるとの考え方に注目したい。[br] ウイルスによる危機も、「気候危機」など環境破壊の危機も人類の活動に起因する。つまり根は同じだとする視点を持ちながら危機を乗り越える道を模索すべきだ。[br] 地球温暖化は感染症を増やすと指摘されて久しい。1988年に設立された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は早くから、温暖化でデング熱やマラリアなど蚊が媒介する感染症が増えると予測してきた。[br] 人間に感染するウイルスの多くは野生動物を宿主としている。新型コロナウイルスも中国のコウモリのウイルスが別種の哺乳類を経て人間に感染したとされている。[br] そのウイルスが中国・武漢市で広がっていた今年1月に米ジョージタウン大学などの研究グループは「温暖化の進行は動物分布を変えてウイルスが野生動物から人間に移行する機会を大幅に増やす」とするシミュレーション結果を発表した。警告として傾聴すべきだ。[br] 主に西アフリカで1970年代後半から最近まで突発的発生を繰り返してきたエボラ出血熱も感染源はコウモリの一種で、感染拡大の背景に熱帯雨林の破壊があるとみられている。[br] 新型コロナの感染拡大により各国の経済活動は低下し、今年の世界の温室効果ガス排出量は減るだろう。だが、2008年のリーマン・ショックの後に排出量が一気に増えた例がある。排出量が長期的に減るとみることはできない。[br] 国を問わず、コロナ禍が経済、社会に与えた打撃は深刻だ。経済回復は最優先事項だろう。しかし気候変動対策が無視されてはならない。何とか人類の英知を結集してコロナ後の国や世界の在り方を探るべきだ。[br] 欧州主要国が4月に「グリーンリカバリー」構想を打ち出した。脱炭素や生物多様性保全も目指しながら打撃を受けた経済と社会を再生させるという意欲的な試みだ。[br] これは脱炭素と経済発展の両立を目指す昨年末の「欧州グリーンディール」が土台。再生可能エネルギーを本格的に導入する巧みな誘導策が数多く盛り込まれている。日本ではコロナ禍を地球環境の現実の中でとらえる発想はまだ浸透していない。欧州の動きから学びたい。