慢性的な人手不足が続いていた労働市場は、新型コロナウイルスの感染拡大で状況が一変し、企業は余剰人員に頭を痛めだした。[br] 総務省の調査によると、4月の休業者は597万人と前年同月比で420万人増えた。就労者全体の約9%が仕事を休んだことになる。「雇用の調整弁」となっているパートやアルバイトなどの非正規労働者は同97万人減少。新規求人数も、厚生労働省の調査では宿泊・飲食サービス業で同48%近く減るなど、主要業種で軒並み落ち込んだ。[br] 4月はウイルス感染者の増大を受け、政府の緊急事態宣言が全国に出されたことが企業経営を直撃した。宣言は5月下旬に全面解除されたが、感染症が終息したわけではない。今後、再流行を招くことになれば雇用情勢はさらに悪化する可能性が大きい。政府による支援だけでなく、民間企業間で助け合う制度づくりも求められよう。ただ4月の完全失業率(季節調整値)は2・6%で、前月に比べ0・1ポイントの上昇にとどまった。企業側は従業員を解雇せず持ちこたえていることがうかがえる。[br] 企業支援のため政府は、2020年度第1次補正に続き第2次補正予算案で、従業員を休ませた企業に支給する雇用調整助成金の拡充を決めた。それ自体は評価したいが、申請の手続きが煩雑で申請から支給までに時間がかかるようでは意味がない。迅速に支援できなければ失業率が今後、急上昇する可能性もある。手続きは簡素に、支給は迅速であるべきだ。[br] コロナ問題は短期間では終息しない。大きく落ち込んだ訪日客が戻り、運輸・観光業界が本格的に立ち直るには、世界的な感染拡大の抑制が一つの条件になる。そのためにもワクチンや治療薬の開発と普及が急がれ、政府による研究開発支援の強化が求められる。[br] コロナ禍は企業に対し、従来のビジネスモデルを再検討する課題も突き付けている。営業自粛を求められた飲食店が、店内での飲食の提供から宅配や持ち帰りに転換して雇用維持に努めたように、従来の業態の見直しは避けられない。メガネチェーン店が、外出困難な高齢者らを対象にした移動販売車を導入するとともにスーパーなどへの買い物代行業を始め、保育・介護会社がオンライン保育の事業化に乗り出した例もある。[br] コロナ時代のビジネス展開を考えることは今後の雇用維持の上でも重要だ。業態の見直しと合わせ、転職に向けた就業支援策の拡充も求めたい。