時評(3月10日)

多くの人が水素爆発の恐怖に震え、「二度と事故を繰り返してはいけない」と誓った。世界を震撼(しんかん)させた東京電力福島第1原発事故から9年。事故現場では今日も廃炉に向けた困難な作業が続く。それでもなくならない現場の惨状は、深刻で、過酷で、残.....
有料会員に登録すれば記事全文をお読みになれます。デーリー東北のご購読者は無料で会員登録できます。
ログインの方はこちら
新規会員登録の方はこちら
お気に入り登録
週間記事ランキング
 多くの人が水素爆発の恐怖に震え、「二度と事故を繰り返してはいけない」と誓った。世界を震撼(しんかん)させた東京電力福島第1原発事故から9年。事故現場では今日も廃炉に向けた困難な作業が続く。それでもなくならない現場の惨状は、深刻で、過酷で、残酷だったあの事故をまざまざと想起させる。[br] 私たちはあの恐怖やあのときの思いを、この国のエネルギー問題、そして未来を考える原点にしたい。政府には原発再稼働に固執する姿勢が正しいのかを自問し、早急にエネルギー構造を転換することを求めたい。[br] 事故当時第1原発所長だった故吉田昌郎さんらの奮闘を描いた映画が最近公開された。吉田氏は生前事故現場を「地獄」、部下たちを「菩薩(ぼさつ)」と表現し、「最悪、東日本壊滅も想定した」と証言した。当時一体何が起きていたのか。なぜそうなったのか。しっかりと記憶し、後世に伝え続けなければならない。[br] 現場では日々、多くの人たちが高い放射線量環境下で困難な作業を続けている。政府の最新の工程表による廃炉完了時期は「2011年から30~40年後」だが、課題は山積し、正確な時期は見通せない。[br] 最難関は溶融核燃料(デブリ)の取り出し。来年2号機での開始を目指しているが工法は決まっていない。1、2号機の使用済み核燃料の搬出も当初目標の23年度から大幅に遅れそうだ。[br] 原子炉建屋に地下水や雨水が流入してデブリに触れた汚染水は増加の一途だ。東電は22年夏には処理済み汚染水の保管タンク容量が限界になるとしている。政府小委員会は処理済み汚染水を海洋、大気のいずれかに放出する案を政府に提案したが、事実上海洋放出に絞り込んでいる。風評被害は確実で、地元の同意抜きの強行は許されない。[br] この9年を振り返る時、もう一つ忘れてはいけない原発がある。東北電力女川原発2号機だ。やはり巨大津波に襲われて炉心溶融の可能性もあった。原子力規制委員会がこの原発は「新規制基準を満たす」と認定した。この被災原発を再稼働させていいのか。政府はその是非を問い直すべきだ。[br] 日本原子力発電の敦賀原発2号機では再稼働に向けた審査資料の地質データが書き換えられていた。よもや再稼働を急いだ結果ではあるまい。[br] 福島事故を経験したこの国の政府は原発を「ベースロード電源」と位置付けたままだ。だが、原発を巡る現実を直視し、精査すればその政策が既に破綻していることが分かる。