国指定重要無形民俗文化財で、北奥羽地方に春を呼ぶ伝統行事の「八戸えんぶり」が、今年も4日間にわたり行われた。期間中の入り込み数は25万人で、昨年より5万6千人少なかったものの、太夫の勇壮な摺すりや子どもたちの愛らしい祝福芸が市民と国内外からの観光客を魅了した。[br] 昨年を下回る入り込み数になった要因として、全日程が平日だったことや、八戸市中心街で参加全33えんぶり組によるメインイベント「一斉摺ずり」が、悪天候に見舞われたことなどが挙げられる。[br] 新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)が国内外で拡大する中での開催となったが、関係者によると、中国などからのインバウンド(訪日外国人客)はもともと多くないため、さっぽろ雪まつりや国内スキーリゾートなどと比べて落ち込み幅は少なかったようだ。[br] 担い手の減少傾向を背景として子どもたちの鑑賞機会を増やそうと、市教委が昨年定めた2月17日の「えんぶりの日」は今年が初めての平日だった。市立の全小中学校は休業となり、あいにくの天候にもかかわらず、一斉摺りに学校単位で見学に訪れる小学校があるなど子どもたちの姿が目立ち、一定の成果が見られた。[br] 一方、市教委は「仕事休もっ化計画」と称して、会社勤めの保護者らに年次有給休暇の取得を促して家族で楽しんでもらおうと呼び掛ける初の試みも。ただ、周知期間が短かったことなどもあってか、仕事を休んで来た大人はまばらだった。国全体で働き方改革が叫ばれている昨今であり、有給取得に目を向けるきっかけとして、来年も取り組みの強化を期待したい。[br] また、えんぶりについて市教委が本年度から、大規模な実態把握調査を進めている。22年度まで八戸圏域と岩手県北地方に現存する45組を対象に、伝統芸能としての歴史や各組の特徴などを掘り起こす取り組みで、東北各地の民俗文化学担当の学芸員が調査に当たるという。[br] まとまった成果をエリア外に広く発信するのはもちろんだが、地域住民にしっかりと還元し、伝統を引き継ぐ意識の醸成につなげてほしい。[br] 八戸三社大祭など特色のある伝統行事が豊富な北奥羽。えんぶりを巡る近年のさまざまな取り組みにより、これまで地元に住む人々が当たり前にあると思っていた地域資源の価値を再認識する契機にしたい。観光や文化面の活性化はもちろん、この地域に住む誇りとしたい。