重厚長大産業を代表する鉄鋼業の象徴だった高炉の閉鎖、休止が相次いでいる。最大手の日本製鉄は呉製鉄所(広島県呉市)にある2基の高炉を含む全ての生産設備を2023年9月末をめどに閉鎖し、和歌山製鉄所(和歌山市)の2基のうち1基を22年9月末をめどに休止すると発表、地元経済への打撃が大きくなるのは確実だ。[br] 同社は鉄鋼需要の低迷から過剰な生産能力の削減を断行、生産能力の1割を減らす。日本の粗鋼生産実績を見ると、18年までは1億トンを維持できたが、19年は9928万トンで1億トンを割り込んだ。一方、中国の19年分は9億9634万トンと日本の10倍で、世界の半分を占めて圧倒的な生産量になっている。[br] 中国の景気が悪化すると、過剰に生産された鉄鋼がこれまで以上に海外に流れ出て、日本の鉄鋼メーカーは厳しい状況になる。今回は高炉3基の閉鎖、休止だったが、世界経済が落ち込めば設備の再編が加速する可能性がある。中国などと鉄鋼の製造コストを比較した場合、日本に勝ち目がない以上は品質の高い高級品にシフトするしかないが、それでも追い上げられるのは避けられない。[br] 1980年代に造船、2000年代に入って家電などが新興国・地域の進出で競争力を失ったが、鉄鋼業は効率生産で何とか生き延びる方策を探るしかない。その場合に最もしわ寄せを受けるのが、鉄鋼生産で栄えてきた企業城下町だ。呉市と和歌山市にとっては死活問題になるのは必至で、できるだけ早く「脱鉄鋼」のシナリオを考えるべきだ。[br] 参考になる事例がある。昨年の12月に三菱重工業が主力の長崎造船所香焼(こうやぎ)工場を売却する計画が伝えられた。売却が実現すると、大型船の建造はなくなり、人口減少に拍車が掛かる。[br] 数年前から危機感を強めた長崎県は、造船技術を生かした洋上風力発電など海洋エネルギー企業、さらにはロボットや、あらゆる機器がインターネットにつながるモノのインターネット(IoT)関連産業を育成しようとしている。既存のコールセンターを発展させた企業の事務管理部門を招致する構想も進めており、いくつかの生命保険会社が「第2本社」機能を移し、新たな雇用につながっている。[br] 加工組み立て型の工場は海外に造る企業が多く、地方での立地は困難になっている。しかし、対策を打たなければ街は衰退する。地域の特色を生かした町おこし、新しい産業を見つけるしか生き残る道はない。