巨大ITの影響力が強まる一方、ひずみも目立つインターネット広告で、取引の透明化に向けた規制の枠組みが固まった。広告費の詐取や利用者データの囲い込みなど、山積する課題への対応は待ったなし。国が巨大ITの「創意工夫」をチェックする日本流の取り組みは、世界で模索が続くデジタル規制の試金石となりそうだ。[br][br] ▽存亡[br] 「会社の存亡にかかわるため要求に従うほかない」。巨大ITとネット広告契約を結ぶ大口取引先の関係者は、公正取引委員会の調査に現状を訴えた。巨大ITが手掛けるサービスは消費者との接点を持ちたい企業に不可欠なインフラとなっており、立場の弱い事業者からは契約に関し「著しく不利な内容でも応じるしかない」との声が上がる。[br][br] サイトの閲覧履歴などを基に個人の関心に沿った広告を提供する「ターゲティング」の手法では、取得した個人データの扱いが不透明と指摘され、繰り返し表示される広告に煩わしさを感じる消費者は、消費者庁のアンケートで7割に達する。内閣官房幹部はネット広告に「デジタル社会のさまざまな課題が凝縮されている」とみる。[br][br] ▽警戒[br] 今回のルール整備では、取引条件の情報開示を義務付ける巨大IT規制法の網をネット広告にもかぶせる。これまでの与党と巨大ITとの協議で、米フェイスブック側は「方向性には基本的に同意したものの、過剰規制にならないようにと繰り返し主張していた」(出席者)。[br][br] 英国が具体的な規制の枠組みを検討するなど海外でもルール整備の動きは広がっており、米国では昨年、テキサス州などが、グーグルがオンライン広告市場の競争を阻害し、価格を支配しているとして独占禁止法(反トラスト法)違反でテキサス州の連邦地裁に提訴した。巨大IT側はこうした動きを警戒し、日本が打ち出した規制の「本気度」を注視する。[br][br] ▽独禁法も[br] 動きだした日本の規制の枠組みについて、大阪大大学院の武田邦宣教授(経済法)は「市場の基盤が整えられる」と評価。プログラムでクリックを稼ぐなどして、不正に広告収入を得る手法「アドフラウド」の横行に対しても、一定の効果があるとみる。[br][br] ただ、ネット広告市場で巨大ITが圧倒的に強い立場にある構造は揺るがないため「問題に応じて、独禁法の適用を考える必要が出てくるかもしれない」とも指摘した。