国内の造船業界で事業撤退や縮小の動きが相次いでいる。手厚い政府支援の下で巨大化する中国や韓国企業との受注競争に押され、手持ち工事量の減少傾向が止まらないためだ。100年超の歴史に幕を下ろす老舗企業も出始めた。生き残りを懸けた合従連衡は今後も加速するとの見方が強まっている。[br][br] ▽苦渋の決断[br] 1911年創業のサノヤスホールディングス(HD)は2月、祖業の造船部門をわずか100万円で新来島(しんくるしま)どっく(東京)に譲渡した。北逵(きたつじ)伊佐雄社長は「グローバル競争が熾烈(しれつ)化する中、当社の規模では生き残るのが極めて難しい」と苦渋の決断の理由を語る。[br][br] 中核事業を手放すことで2022年3月期の連結売上高は200億円と、半分以下に縮む見通しだ。苦境を脱するため、今月12日に公表した「脱造船」後の成長戦略では、工事用エレベーターや化粧品製造装置に注力し、市場の隙間を狙う「ニッチトップの集合体」を目指すとした。[br][br] 造船城下町では供給能力縮小や集約の動きが広がる。佐世保重工業(長崎県佐世保市)は2月、新造船事業を22年1月で休止し、艦艇修繕などに集中すると発表。250人の希望退職も募集する。三菱重工業は長崎造船所香焼(こうやぎ)工場(長崎市)の新造船エリアを大島造船所(同県西海市)に売却すると決めた。[br][br] 造船業はかつて日本の「お家芸」とされ、長らく世界首位の座にあったが、00年代から中韓勢に追い上げられ、今や3位の座が定着。政府主導で再編が進む中韓勢は体力勝負の安値攻勢を仕掛けており、業界団体によると、日本勢の20年の受注量は10年の3分の1に満たない370万総トンにとどまった。手持ち工事量は1年半弱の分しかなく、危機的な低水準だ。[br][br] ▽脱炭素[br] 国内造船業の競争力強化には、さらなる再編が欠かせない。建造量で国内首位の今治造船(愛媛県今治市)と2位のジャパンマリンユナイテッド(JMU、横浜市)は営業や設計を手掛ける会社を共同で設立、1月に始動した。三井E&Sホールディングスは造船子会社の株式49%を常石造船(広島県福山市)に譲渡することで合意した。造船大手関係者は「再編の判断は遅すぎるぐらいだった」と話し、提携の動きが続くと予想する。[br][br] 今後は、脱炭素化の流れを商機につなげられるかどうかもポイントだ。川崎重工業が水素を動力源とする船舶の開発を進めるなど、各社は次世代技術の取り組みを加速。政府は省エネ船導入や事業再編を促す法改正を急ぎ、競争力を取り戻したい考えだ。