最後のレースとなった女子50メートル自由形。レース前の招集所で、池江璃花子(20)=ルネサンス=は鋭い視線で西崎勇コーチ(41)に宣言した。「勝ってきます」。その言葉通りに頂点をさらい、華々しい復活劇を4冠で締めくくった。白血病に侵される前と変わらない、多種目での活躍。東京五輪は個人種目も出場できる見通しで、体調が許せば連日のように泳ぐ姿を見られそうだ。[br][br] 2レースとも入場の際、気迫みなぎる表情でカメラに向かって拳を握りしめた。「勝てるかどうか」と不安もあった大会前と見違える、トップアスリートの姿。日に日に高まった勝利への欲求を、完璧に満たし「有言実行できて良かった」。泳げる喜びだけでなく、勝つ喜びまで取り戻した。[br][br] 五輪種目は50メートルと100メートルの自由形、100メートルバタフライを制した。それぞれの派遣標準記録には届かず、現時点ではリレーの代表切符のみ。しかしこの3種目は、日本水泳連盟の代表選考基準を満たした選手がいない。個人種目は1カ国・地域から2人まで出られるため、リレーで日本代表入りする池江は本番でエントリーが可能だ。[br][br] 3種目で予選、準決勝、決勝と勝ち進めば3レースずつ。予選と決勝があるリレー種目は、代表権を得た400メートルリレーと400メートルメドレーリレーに加え、男女が2人ずつ泳ぐ新採用の混合400メートルメドレーリレーも泳ぐ可能性がある。日程の重複もあり、さすがに全てこなすのは厳しいが、単純計算で9日間最大15レースになる。[br][br] 2018年ジャカルタ・アジア大会は6冠に輝き、最優秀選手に。日本選手権は17年に5冠、18年は4冠を果たした。負けず嫌いで、狙った獲物を捕らえる執念は昔から。幼少期、母美由紀さんとのかるた対決で、ほぼ同時に手を出した母の爪をはがしたこともある。[br][br] 競泳で集めたメダルや副賞のぬいぐるみは、自宅のテレビ台に並べてきた。病気になって一度はきれいに片付けたが、今年2月のジャパン・オープンで手にした銀メダルを久々に飾った。今大会で四つ、そして東京五輪では―。「決まったからにはしっかり使命を果たす」。新たな勲章を次々と手に入れるヒロインの歩みが再び始まった。