五輪のハイライトとなる開会式の演出案を明らかにした週刊誌報道を巡り、東京五輪・パラリンピック組織委員会が発売元の文芸春秋に厳重抗議の上、異例の掲載誌回収やオンライン記事の全面削除などを求めた。「極めて機密性の高い秘密情報」と著作権侵害や業務妨害を持ち出し、守秘義務違反を含め徹底的な内部調査にも着手。しかし専門家からは「読者の知る権利」や「表現の自由」を脅かす問題との指摘が出ている。[br][br] ▽著作権侵害[br] 「報道の自由を制限するということでは全くない。ただ280ページに及ぶ内部資料が入手され、組織委の秘密情報を意図的に拡散し、業務を妨害するものと判断した」。2日、組織委の橋本聖子会長は定例会見で、抗議の理由をこう説明した。[br][br] 1日発売の週刊文春は開閉会式の演出責任者を一時務めていたMIKIKOさんの演出案とともに、国際オリンピック委員会(IOC)にプレゼンテーションしたとされる資料を複数枚の画像付きで掲載。組織委の法務部長は「この画像が著作権侵害」と指摘する。[br][br] これに対し、文春側もコメントを発表し「巨額の税金が浪費された疑いがある開会式の内情を報じることには高い公共性、公益性がある。著作権法違反や業務妨害にあたるものではないことは明らか」と反発。また掲載誌の回収などには「極めて異例」「異常なもの」と驚きを示した。[br][br] ▽損害賠償も[br] 五輪の開会式は聖火の最終点火者や点火方法を含め「トップシークレット」で、世界的に報道合戦が過熱する。それだけに、内部資料の流出に「やり過ぎだ」(組織委幹部)と衝撃が走った。[br][br] 式典の演出は大部分ができており、延期前の案も採用される見通しだった。組織委は抗議文で「演出内容が事前に公表された場合、検討段階のものであったとしても価値は大きく毀損(きそん)される」とし、代替案を考える場合、多大な時間や費用がかかると損害賠償の可能性も示唆する。[br][br] ▽日本の後進性[br] 東京都立大の舛本直文客員教授(五輪研究)は、組織委が雑誌回収まで求めた背景を「演出などの情報管理に関するIOCとの契約があり、対応せざるを得なかったのではないか」とみる。開会式は平和の祭典とされる五輪の精神を表現するものだが「テレビ視聴率を意識し、サプライズプログラムばかりが重視されるようになっている」と指摘。「放映権料抜きに語れない最近の五輪を象徴している」と話した。[br][br] 「読者の知る権利を奪うものとして看過できない問題だ」と話すのは、専修大の山田健太教授(言論法)。税金も投じられ、公共の関心事である五輪。「公的機関、しかも政治家が長となっている組織が、好ましくない記事をなきものにしようとすることが、あってはならない」と批判する。[br][br] 組織委は大会を運営する立場であり、抗議が「報道機関への、どう喝になり得る」とも問題視。女性理事を増やすなど新体制になった改革は歓迎するものの「表現の自由でも日本の後進性を示してしまった。より開かれた組織運営を強く求めたい」と注文を付けた。