2021年度予算成立を受け、菅義偉首相は本格政権へ勝負の時を迎える。自民党総裁任期が9月、衆院議員任期が10月に迫る中、総裁再選と衆院選勝利が不可欠。今後の鍵は、4月の訪米で態勢を立て直し、新型コロナウイルス感染を抑えて内閣支持率を上向きにできるかどうかだ。失速すれば、党内で「選挙の顔」として不適格と烙印(らくいん)を押されかねない。衆院選前哨戦となる見込みの衆参両院3選挙も逆風必至。首相の苦難は続く。[br][br] ▽局面転換 [br][br]「本格政権の第一歩としたい」。首相は訪米について、こう漏らした。側近は「バイデン大統領との初会談を控え、緊張感がみなぎっている」と明かす。新型コロナが収束する気配が見えず、低空飛行の政権運営が続く。何とか局面転換を図りたい思惑が透ける。 党幹部も「注目を浴びる訪米の後、高齢者へのワクチン接種が始まる。風景は明るくなる」と期待を隠さない。[br][br] 衆院選をにらんだ布石も打たれつつあるように映る。3月22日の経済財政諮問会議で首相は「ポストコロナに向けた課題に取り組み、政策を前に進める」と宣言。中小企業支援など地方重視姿勢を鮮明にした。政権幹部は「ばらまきを予告するような内容。選挙を見据えている」と解説した。[br][br] ▽第4波[br][br] 安倍晋三前首相の退陣を受けて昨年9月に登板した菅氏。「暫定色」がなお付きまとうが、視線の先に長期政権があるのは間違いない。党幹部も「総裁選前に衆院解散に打って出て勝った場合、無投票で総裁再選だ」と強調する。[br][br] 衆院解散は「伝家の宝刀」と呼ばれる。安倍前首相は最適なタイミングで断行し、衆院選で連勝することで政権基盤を盤石にした。首相にとって、追い込まれ解散だけは避けたいシナリオだ。[br][br] 解散判断への最大の障害は新型コロナだ。「新型コロナとは、しばらく付き合っていく」。首相は周囲にこう嘆息する。緊急事態宣言を3月21日で全面解除したが、感染再拡大の兆候が各地で出始めた。「第4波」襲来も現実味を帯びる。[br][br] 官邸筋は「感染者数と内閣支持率は連動する。感染者が爆発的に増えれば政権の実績は全て吹き飛ぶ」と分析する。共同通信社の電話世論調査では、昨年12月から3回連続で内閣支持率が下落。感染拡大に反比例した形で、42・1%だった3月20、21両日の調査でようやく微増に転じた。[br][br] 無派閥出身で党内基盤が脆弱(ぜいじゃく)な首相。有力な「ポスト菅」がいないが故の消極的支持もある。ベテランは「新型コロナを抑え込めず支持率下落が続けば、解散を打てないまま、求心力を失う展開もあり得る」と語った。[br][br] ▽パズル[br][br] 地方選の不調も気掛かりだ。21日の千葉県知事選では推薦候補が惨敗。7月の兵庫県知事選は保守分裂が不可避な状況に陥った。選対幹部は「地方固有の事情もあるが、反目は衆院選に響く」と不安を口にする。[br][br] 4月25日の衆参3選挙ものしかかる。参院広島選挙区再選挙での1勝は確保したいが、選挙買収を認めた河井克行元法相(衆院広島3区)の影響で「楽観できない」(県連幹部)と身構える。落とせば、首相の指導力が問われるのは確実だ。[br][br] 衆院選と総裁選の両方をどう勝ち抜くか。解散時期を含め首相は複雑なパズルを解かなければならない。閣僚経験者はこうつぶやいた。「救いは、野党の支持率が全く上がらないことだ」